千葉への移住を考えて、東京と千葉のハザードマップを見比べたことはありませんか。千葉側は湾岸に色が塗られているのに、東京都の区部は津波レイヤーが真っ白。「やっぱり千葉のほうが危ないのでは」と不安になった方もいると思います。

結論から言うと、この色の差は危険度の差ではありません。東京都区部に津波の浸水想定が「設定されていない」だけです。非公開でもなければ、安全のお墨付きでもありません。

私は宅建士(2014年取得)・FP1級(2019年取得)を持ち、今は不動産テック企業でAIを使った不動産価格の査定システムを開発しています。重要事項説明を作る側にいた経験から言うと、ハザードマップは「載っているもの」よりも「載っていないもの」のほうが判断を狂わせます

この記事では、東京と千葉で地図の見え方が変わる理由、未設定を安全と読んではいけない根拠、そして重要事項説明で何が説明され何が説明されないのかを整理します。読み終えるころには、地図の色に振り回されず、東京と千葉を同じ物差しで比べられるようになります。

東京の津波ハザードマップが真っ白なのは「未設定」だから

東京都区部の津波ハザードマップに色がついていないのは、情報が隠されているからでも、リスクがないと判定されたからでもありません。そもそも法律に基づく津波浸水想定が設定されていないため、塗るべき色が存在しないのです。

「非公開」でも「安全のお墨付き」でもない

津波の浸水想定は、津波防災地域づくりに関する法律(平成23年法律第123号)第8条第1項に基づいて、都道府県知事が設定するものです。設定されて初めて浸水域と浸水深が地図になります。

東京都はこの手続きを、島しょ地域を対象に実施しました。逆に言えば、区部と多摩は設定作業そのものが行われていません。地図が白いのは、審査の結果ではなく作業範囲の問題です。「白い=安全と判定された」ではなく「白い=判定されていない」と読むのが正確です。

東京都が津波浸水想定を設定しているのは島しょ地域だけ

国土交通省が公表している全国の設定状況(2026年5月時点)でも、東京都には「島嶼部のみ」という注記が付いています。そして津波災害警戒区域(同法53条)を指定済みなのは31道府県で、東京都はここに含まれません。都内の津波災害警戒区域はゼロです。

つまり東京都区部は、浸水想定も警戒区域も存在しない状態です。地図が白いのは当然の帰結ということになります。

千葉側だけ色が塗られている理由は「危険度の差」ではない

では、なぜ同じ東京湾なのに千葉側には色がついているのか。答えは千葉県が浸水想定を設定したからで、それ以上でもそれ以下でもありません。

千葉県は33市町村で津波浸水想定を設定している

千葉県は同じ法律の第8条に基づき、津波浸水想定を設定・公表しています。想定される浸水面積は28,612ha、対象は33市町村。最大の津波水位は25.2mです(千葉県公表値)。

ここで見落とされがちなのが対象範囲です。外房や南房総だけでなく、市川市・船橋市・習志野市といった東京湾岸の市も浸水想定図に含まれています。東京湾の内側でも、千葉側は塗られ、東京側は白い。この落差が「千葉のほうが危ない」という誤解を生みます。

千葉県も津波災害警戒区域は指定していない

もうひとつ大事な事実があります。千葉県も、津波災害警戒区域・津波災害特別警戒区域はいずれも未指定です(千葉県公表、2026年8月時点)。浸水想定図は作ったが、区域指定という次のステップには進んでいない状態です。

整理すると、東京と千葉の差は「危険か安全か」ではなく、行政がどこまで手続きを進めたかの差です。 項目東京都(区部)千葉県 津波浸水想定(法8条)未設定設定済み(33市町村) 津波災害警戒区域(法53条)指定なし指定なし ハザードマップの見え方白い色がついている

地図の色は、その土地の安全性ではなく情報の整備状況を映しています。ここを取り違えないことが出発点です。

東京都が区部に津波浸水想定を設定していない3つの背景

作業されていないだけとはいえ、東京都が理由なく放置しているわけではありません。背景は大きく3つあります。減衰・高潮・裁量規定です。

東京湾の奥では津波が減衰する

東京湾は湾口が狭く、津波が湾奥に届くまでに勢いを失います。東京都の被害想定(令和4年5月公表)によれば、南海トラフ巨大地震での区部の最大津波高は、江東区2.63m、中央区2.42m、品川区2.38m、港区2.37mといった水準です。

品川区の資料では、最大津波高2.38mの到達は地震発生から約3時間20分後とされています。数メートル級かつ到達まで数時間という条件は、三陸沿岸などとは前提がまったく異なります。

湾岸で深刻なのは津波より高潮

湾岸エリアで水害を心配するなら、見るべきは津波ではなく高潮です。東京都は水防法に基づく高潮浸水想定区域図を作成しており、対象は17区(千代田・中央・港・新宿・文京・台東・墨田・江東・品川・目黒・大田・北・荒川・板橋・足立・葛飾・江戸川)に及びます。

この想定は、日本の既往最大規模である室戸台風級(910hPa)の台風が、東京湾沿岸に最大の高潮を発生させる経路を通る前提です。しかも高潮と同時の河川洪水を考慮し、堤防等の決壊まで見込んでいます。津波の想定が白い一方で、高潮では広範囲に色がつく。これが湾岸の実像です。

警戒区域の指定は「できる」規定

3つめは法律の作りです。同法53条第1項は、都道府県知事が津波災害警戒区域を「指定することができる」と定めています。義務ではなく裁量です。

そのため、指定がないことは「指定するほどではないと判断された」ことを意味しません。判断していないケースと、判断した結果のケースが、外形上まったく同じに見えるのが裁量規定の厄介なところです。

それでも「未指定=安全」と読んではいけない理由

ここまでの話を「では東京湾岸は心配ない」とまとめてしまうと、大事な前提を落とします。法定の浸水想定は、防潮堤が機能しない前提で計算されているからです。

法定の浸水想定は、堤防を信用しない前提で計算されている

この点は、実際に設定作業を行った千葉県の条件を見ると一目でわかります。千葉県が公表している計算条件は次のとおりです。

  • 各種構造物は、津波が越流し始めた時点で「破壊する」ものとし、破壊後は「構造物のない状態」として扱う
  • 堤防は、地震直後に地震前の25%の高さまで沈下したものとする
  • さらに津波が堤防を越流した場合は、地震前の0%の高さとする

つまり法定の浸水想定は、防潮施設をほぼ戦力外とみなしたうえでの数字です。したがって「防潮堤があるから未指定なのだろう」という理屈は成り立ちません。未指定の理由を施設の強さに求めるのは、想定の作り方と矛盾します。

港区は独自に2種類のマップを作っている

この前提を実務に落とし込んでいるのが港区です。港区の津波ハザードマップ(令和6年3月版)は2種類あります。

  • ハザードマップA:防潮堤・水門・古川護岸が健全に機能し、液状化による沈下が発生しない場合
  • ハザードマップB:防潮施設のすべてが損傷等により機能せず、液状化による沈下が発生した場合(最悪の想定)

港区はこの浸水予測図をもとに津波避難ビルを指定しています。都として浸水想定を設定していない一方で、区は施設が全損した場合まで想定して備えている。この温度差そのものが、白い地図の意味を教えてくれます。

重要事項説明で説明される水害リスクと、されないもの

物件を買うときに受ける重要事項説明でも、この空白はそのまま持ち込まれます。水害リスクの説明は3つの層に分かれていて、津波は一部の層から抜け落ちます

第1層:説明義務があるのは津波災害警戒区域「内」のときだけ

宅地建物取引業法施行規則16条の4の3第3号は、対象の宅地または建物が津波災害警戒区域内にあるときに、その旨を説明するよう定めています。

国土交通省のQ&Aも、取引時に津波災害警戒区域としての指定がなされていない場合には説明を行う義務はないと明記しています。東京都には指定がゼロなので、この層は都内では常に空欄になります。

第2層:水害ハザードマップの説明義務は洪水・内水・高潮の3種

2020年8月28日施行の改正で追加された水害ハザードマップの説明(同規則16条の4の3第3号の2)は、水防法15条3項に基づく洪水・雨水出水(内水)・高潮の3種類が対象です。津波はこの3つに入っていません。

裏を返せば、湾岸物件で最も浸水深が深く継続時間も長い高潮は、この層でしっかり説明対象になります。重説で高潮マップを提示されたら、そこが本命だと思ってください。

第3層:区域外でも位置を示す義務がある

見落とされやすいのが3層目です。国土交通省のQ&A(令和2年7月17日現在)は、浸水想定区域の外であっても水害ハザードマップにおける位置を示す必要があり、区域外だからリスクがないと相手方が誤認しないよう配慮するよう求めています。

自治体が独自に作った津波ハザードマップは、この説明義務の外側にあります。港区のA・Bのような資料が存在しても、提示されるかどうかは業者の運用次第です。欲しければ自分から求めるのが確実です。

東京と千葉を同じ物差しで比べる4ステップ

ここまでを踏まえると、比較の手順はシンプルになります。地図の色ではなく、同じ項目が両者に揃っているかを確認するやり方です。

  1. 高潮浸水想定区域図を最初に開く。東京側は東京都港湾局の高潮リスク検索サービス(令和6年12月改定版)、千葉側は千葉県公表の高潮浸水想定区域を見ます。湾岸では津波より先にここを見るのが順序として正しいです。
  2. 洪水と内水を確認する。重説で必ず提示される3種のうち残り2つです。川からの氾濫だけでなく、下水の処理能力を超える内水氾濫も見ます。
  3. 自治体の独自マップを取りに行く。港区のように区が独自に作っている資料があるかを、市区町村のサイトで直接確認します。津波マップの有無自体が、その自治体の姿勢を示す情報です。
  4. 標高と避難先を現地で見る。地図の等高線より、実際の坂や避難ビルの位置のほうが判断材料になります。国土地理院の地理院地図で標高を確認したうえで、内見のついでに歩いてみてください。

この4つを東京側と千葉側の両方でやれば、地図の色に引きずられた比較にはなりません。

まとめ:白い地図は「安全」ではなく「情報の空白」

この記事の要点を振り返ります。

  • 東京都区部の津波ハザードマップが白いのは、浸水想定が未設定だから。非公開でも安全の証明でもない
  • 千葉側に色がついているのは、千葉県が浸水想定を設定したから。危険度の差ではなく、手続きの進み方の差
  • 千葉県も津波災害警戒区域は未指定。区域指定という点では東京と同じ
  • 法定の浸水想定は堤防を戦力外として計算されるため、「防潮堤があるから未指定」は成り立たない
  • 湾岸で見るべき本命は高潮。重説の説明義務も洪水・内水・高潮の3種で、津波は含まれない

マップの色は土地の性質ではなく、行政の作業状況を映しています。そこを分けて考えられるようになると、「東京だから安心、千葉だから不安」という漠然とした感覚から抜け出せます。同じ項目を同じ手順で並べて、自分の家族が納得できる場所を選べるようになるはずです。

東京と千葉を数字で比べる視点は、災害以外にも使えます。治安についても同じやり方で整理しています。

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📎 参考・出典

⚠️ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的・税務的・投資的アドバイスではありません。記載内容は2026年8月時点の情報です。ハザードマップおよび区域指定の状況は随時更新されるため、実際のご判断にあたっては各自治体の最新情報をご確認のうえ、宅地建物取引業者・税理士等の専門家にご相談ください。

執筆日:2026年8月25日/最終更新日:2026年8月25日/情報の時点:2026年8月

✍️ この記事を書いた人|ほげたろう

宅建士(2014年取得)・FP1級(2019年取得)保有。今は不動産テック企業でAIを使った不動産価格の査定システムを開発。「家を売るとき・買うときの情報格差をなくす」がミッション。飛び込み営業時代や不動産投資の失敗も含めたリアルな体験と、日々データと格闘するエンジニア目線の両方から「不動産ゼロからナビ」を運営。4人家族、地方在住。「難しそう」を「なんとかなる」に変える情報を発信中。

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