家を買ったあとで越境が判明。慌てて直す前に知っておきたい「境界」と「覚書」の話
マイホームを買って、境界の「目印」を頼りに庭のフェンスを立てた。ところが数年後、隣の家が土地を測り直したら「あなたのフェンスの土台、5cmこっちに入ってますよ」と言われた——。やり直しには20万円ほどかかるらしい。「渡された目印を信じただけなのに、全額うちが払うの?」と、納得できない気持ちになりますよね。
先に結論を言うと、法律上の原則では、越境(えっきょう)している側、つまり自分のほうが直す話になりやすいです。目印を信じたかどうかは、残念ながら隣の人の権利には関係ないんです。ただし、20万円を払う前に確認できること・交渉できることがいくつもあります。ここを知っているかどうかで、出費もご近所付き合いも変わってきます。
この記事を読み終えるころには、「なぜ自分が直す側になるのか」「5cmでも全部やり直さないといけないのか」「払う前にどんな順番で動けばいいのか」が整理できているはずです。慌てて20万円を出す前に、まずは落ち着いて読んでみてください。
結論:目印を信じても、直すのは越境した側になりやすい
越境している状態がはっきりしているなら、原則としてそれを是正する(=直す・引っ込める)のは越境している側です。そして、その費用も原則、越境した側の負担になります。
理由はシンプルで、土地の所有権がとても強い権利だからです。自分の土地に他人の物が入っていれば、土地の持ち主は「どけてください」と求められます。これを「所有権に基づく妨害排除(ぼうがいはいじょ)請求権」といいます。逆に言うと、自分のフェンスが隣の土地に入っていれば、隣の人からこの請求を受ける立場になる、ということなんです。
ここで大事なのが、「こちらは業者に渡された目印を信じただけ」という事情は、隣の人の権利をさまたげる理由にならないという点です。一般財団法人 住宅金融普及協会の解説でも、越境した側の故意・過失(わざとか、うっかりか)を問わず、隣地所有者は撤去や土地の返還を求められ、しかも撤去費用は原則として越境した側が負担する、と整理されています。「悪気はなかった」は、費用を隣に回す理由にはならないわけですね。
だから「目印のせいだから隣が払って」は、そのままだと通りにくいです。ただ——これで終わりではありません。20万円を出す前に打てる手が、ちゃんとあります。次から順番に見ていきましょう。
そもそも越境って? 目印と本当の境界は別物
「業者が打った目印」と「登記上の正式な境界」は、必ずしも同じではありません。まずはこの2つを分けて考えるのが第一歩です。
じつは土地の境界には2種類あります。ここを知らないと話がかみ合いません。ひとつは筆界(ひっかい)。これはその土地が登記されたときに区画として定められた線で、公的な境界です。もうひとつは所有権界(しょゆうけんかい)で、こちらは実際にどこまでが自分の所有かという私的な線です。政府広報オンラインや法務省も、この2つがあると明記しています。
筆界(公的な境界)
登記されたときに決まった区画線。土地の持ち主同士が話し合っても勝手には動かせません。「本来の境界」はこちら。
所有権界(私的な境界)
実際の所有権が及ぶ範囲。当事者の合意や時効などで、筆界とズレることがあります。
ふつうは筆界と所有権界は一致します。ただ、過去に一部を譲った、時効で一部が移った、といった事情があるとズレることがある、と政府広報も説明しています。
ここで問題になるのが、建売業者が現地に打った「目印」は、この正式な境界確定の結果とは限らないということ。工事の目安として仮に置いたポイントだったり、測量の精度が甘かったりすることは実務で普通にあります。だからこそ、隣が土地を測り直したときに初めて「5cmズレてました」と出てくるわけです。
私も現場で「杭(くい)だと思っていた印が、じつは工事用の仮ポイントだった」というケースを何度か見ています。目印=確定した境界、と思い込んでしまうと、あとで足をすくわれます。「その目印は何を根拠に、誰が打ったものなのか」を確認するクセをつけておくと安心です。
なぜこっちが直す? 妨害排除請求権と民法206条
土地の所有権はとても強い権利で、他人の物がそこにあるだけで「どけて」と言えます。だから越境している側が直す、というのが原則です。
根っこにあるのは民法206条です。ここでは「所有者は、法令の制限内で、自由にその所有物を使用・収益・処分できる」と定められています。民法(e-Gov法令検索)で条文そのものを確認できます。この強い所有権を守るために、自分の土地に入り込んだ他人の物の排除を求められる——これが妨害排除請求権(物権的請求権とも呼びます)です。
この請求には、実務上おさえておきたい特徴が3つあります。
もうひとつ大事なのが、「腹が立つから勝手に隣のフェンスを動かす」はNGということ。日本では自力救済(じりききゅうさい=自分で実力行使すること)は原則禁止で、勝手に動かすと逆に損害賠償を求められかねません。あくまで話し合い、それでダメなら調停や裁判、という順番になります。
つまり法律のスタート地点は「越境した側が、自分の費用で直す」。ここは動かしにくい前提として、まず受け止めておきましょう。ただし次の章で、この前提に「例外」が出てきます。
5cmで全部やり直せは通る? 権利濫用と宇奈月温泉事件
わずか5cmのために「今すぐ全部撤去しろ」という要求は、いつでも通るとは限りません。損害が小さく、直すのに過大な費用がかかる場合、その請求が「権利の濫用(らんよう)」として退けられることがあります。
ここで登場するのが民法1条3項の「権利の濫用は、これを許さない」という規定です。いくら正当な権利でも、それを振りかざすことで相手に大きすぎる損害を与えるような場合は、権利の行使が認められないことがある、という考え方ですね。
この考え方を初めて正面から認めた有名な判例が、宇奈月温泉事件(うなづきおんせんじけん・大審院 昭和10年10月5日判決)です。ざっくり言うと、温泉の引湯管(お湯を引く管)がわずか2坪ほど他人の土地をかすめていた。それに目をつけた人が、その土地を安く買った上で「管を撤去しろ。いやなら周辺の土地ごと高値で買い取れ」と迫った。裁判所は「これは所有権の行使という形をとっているだけで、実質は不当な利益ねらい」として、撤去請求を認めませんでした。損害が小さく、撤去に莫大な費用がかかる状況では、所有権でも振りかざせない、と示した事件です。
同じ発想は、いまの近隣トラブルにも生きています。土地家屋調査士が監修する三井住友トラスト不動産の解説では、前の所有者の代からあったブロック塀について、通路の幅も十分で通行の妨げになっていないのに撤去を求めたケースで、東京高裁が撤去請求を権利濫用と認定した例が紹介されています。土地の境界・筆界アドバイス(三井住友トラスト不動産)でも、こうした場合の実務対応が解説されています。
ただし、権利濫用が認められるのはあくまで例外的なケースです。「5cmだから絶対に権利濫用だ」と過信して強気に出ると、こじれます。あくまで「撤去させる側にも一定の制限がある」という交渉材料として、頭の片隅に置いておくくらいがちょうどいいです。
裏を返すと、隣の人が「今すぐ壊して直せ」とまでは言っていないなら、無理に大金をかけて全部やり直さなくても収まるケースは多い、ということでもあります。その「落とし所」が、次の章で出てくる覚書です。
20万円を払う前にやること 確認と交渉の順番
すぐに財布を開ける前に、①その測量は正式か、②業者に相談できないか、③覚書で収められないか、の順で確認するのがおすすめです。
隣が言う5cmが、境界確定(隣地立会いのうえで境界を確定する手続き)にもとづく正式なものか、それとも一方的な測量なのかで話が変わります。もし境界そのものに争いがあるなら、法務局の「筆界特定制度」を使う手もあります。これは公的機関が筆界を明らかにする制度で、裁判より短い期間・費用で結論が出やすいと法務省も案内しています。まずは土地家屋調査士に「この測量、根拠は何ですか?」と確認するところから。
業者が渡した目印が誤っていたのなら、売主(建売業者)に相談する余地はあります。売買契約の内容に合わない引き渡しだった場合、買主は補修や代金減額などを求められる可能性があります(契約不適合責任。改正民法562〜564条あたり)。ただし正直なところ、引き渡しから年数が経っていると、期間の制限や立証の難しさで実際には厳しいことも多いです。「ダメ元でも一度は当たってみる」くらいの温度感で。
今すぐ壊すのではなく、将来フェンスを建て替えるタイミングで是正することを約束し、それまで隣は撤去請求をしないでおく——という合意を書面にするのが「越境の覚書」です。双方に大きな負担が出ないので、5cm程度で相手も急いでいないなら、この形で収まるケースは多いです。作るときは、将来お互いの土地を売ったときに新しい持ち主へ内容を引き継ぐ条項も入れておくと安心です(覚書は当事者間の約束なので、それがないと次の持ち主に当然には引き継がれません)。
この3つを踏んだ上で、それでも直すのが妥当なら是正する。順番を守るだけで、「言われるまま20万円」を避けられることは少なくありません。もめそうなら、土地家屋調査士や弁護士に早めに相談してください。正論で戦って勝つより、ご近所付き合いを壊さない着地のほうが、長い目で見て得なことも多いです。
じつは放置がいちばん危ない 時効取得のリスク
「もめたくないから見なかったことにする」が、実は一番リスクの高い選択になり得ます。越境を長く放置すると、時効取得(じこうしゅとく)で土地の権利が動いてしまうことがあるからです。
民法162条には、所有の意思をもって平穏かつ公然と他人の物を占有し続けると、20年(占有の始まりに善意・無過失なら10年)でその所有権を取得できる、という時効取得のルールがあります。これは越境の場面では両側に効きます。
放置すると…自分が「取られる」ことも
逆に隣の構造物が自分の土地に長く入り込んでいて、それを放っておくと、その部分の土地を隣に時効取得されてしまう可能性があります。
放置すると…「取れる」場合もあるが不安定
自分の越境が長く続けば理屈上は時効取得の話も出ますが、覚書などで「所有の意思がない」と示されると成立しづらく、当てにはできません。
ここが覚書のもうひとつの意味です。覚書を交わしておくと「自分は越境部分を自分の土地だと思って占有しているわけではない」ことがはっきりするので、あいまいな時効の主張を防ぎ、将来の紛争の芽を摘めます。「今は直さない」を選ぶとしても、口約束で終わらせず、必ず書面に残しておく。これが将来の自分と、次にこの家を買う人を守ります。
これから千葉で戸建てを買う人へ 境界の予防チェック
越境トラブルは、買うときのひと手間でかなり防げます。「目印を鵜呑みにしない」——これだけでも将来の数十万円を守れます。
都内を離れて千葉で戸建てを、と考えている方にこそ知っておいてほしいのがここです。マンションと違って戸建ては土地そのものを持つので、境界の問題が自分ごとになります。契約前・引き渡し前に、次の5点を確認しておくと安心です。
この5点を、契約を急かされても必ず通す。ここを飛ばして「目印を信じて外構をつくる」と、まさに今回のような数年後の出費につながります。エリア選びでは治安も気になるところだと思うので、参考までに千葉の主要エリア vs 東京23区 犯罪件数ランキングの記事も置いておきます。住む場所と、その土地の権利まわり。どちらも、後から効いてくる部分です。
今回の越境の話でわかるのは、家にまつわるお金は「知識の差」でそのまま増減するということです。自宅の購入も、突き詰めれば不動産投資と同じゲームです。土地の権利、境界、相場、資金計画——知っている人はムダな出費を避け、知らないまま買った人は、越境の数十万円どころか、売るときに数百万円単位で取り返せない差になることもあります。
私自身、20年以上前にファイナンシャルアカデミーの不動産投資スクールで基礎を学び、その視点を持って自宅2件を含む13件の取引を進めてきました。おかげで、境界や契約まわりで「言われるまま損をする」場面を避けられたと思っています。難しい理屈より、まず「家を買う=投資判断だ」という目線を持てるかどうかが分かれ目です。
気になる方は、まず無料体験を受けてみてください。無料で、無理な勧誘は一切なく、話を聞くだけでも大丈夫です。受講料は安くはありませんが、不動産で一度大きく間違えたときの損失と比べれば、はるかに小さい投資です。不動産は気軽に買うものではないですが、この体験受講のほうは気軽に受けてみてください。
※ 本記事は一般的な情報提供であり、特定の投資成果を保証するものではありません。学ぶかどうかはご自身でご判断ください。
まとめ
越境の「目印トラブル」は、原則を知った上で順番よく動けば、慌てて大金を払わずに済むことが多いです。ポイントを振り返ります。
正論で戦って勝つことより、ご近所付き合いを壊さずに穏やかに着地するほうが、長い目で見れば得なことも多いです。もめそうなら、早めに土地家屋調査士や弁護士に相談を。「難しそう」を「なんとかなる」に変えて、安心して家と付き合っていきましょう。
宅建士(2014年取得)・FP1級(2019年取得)保有。今は不動産テック企業でAIを使った不動産価格の査定システムを開発。「家を売るとき・買うときの情報格差をなくす」がミッション。飛び込み営業時代や不動産投資の失敗も含めたリアルな体験と、日々データと格闘するエンジニア目線の両方から「不動産ゼロからナビ」を運営。4人家族、地方在住。「難しそう」を「なんとかなる」に変える情報を発信中。