なぜ高い塗料でも数年で剥がれるのか|洗浄・下地で手を抜く業者の見抜き方【密着・洗浄下地編】
大規模修繕の見積書を開くと、「高圧洗浄」「下地調整」みたいな項目がしれっと並んでいて、何にお金がかかっているのか分かりにくいですよね。足場や塗装と違って完成後は見えない部分だし、「ここは少し削ってもいいかな」と思ってしまう人も多いはずです。
でも結論から言うと、外壁・屋根塗装の仕上がりは、塗る前の「洗浄」と「下地」でほぼ決まります。ここが雑だと、どれだけ高い塗料を使っても数年で剥がれてしまうんです。
私は宅建士(2014年取得)・FP1級(2019年取得)を持ち、今は不動産テック企業でAIを使った不動産価格の査定システムを開発しています。今回は、自分が所有する築29年・重量鉄骨造の賃貸物件(千葉市内)の大規模修繕に、施主として全工程に密着中。この記事では、実際の現場写真をまじえて「なぜ洗浄と下地がそこまで大事なのか」を解説します。
読み終わるころには、見積書の地味な項目の意味が分かり、「この業者は見えないところまで手をかけてくれそうか」を自分の目で見分けられるようになります。塗料選びより前の、土台の話です。
📑 この記事でわかること
結論:塗装の出来は「塗る前」でほぼ決まる
塗装の良し悪しは、塗料のグレードより先に「洗浄」と「下地」で決まります。今回の②③は、完成後には見えなくなる“土台づくり”の工程です。
なぜ土台が大事なのかというと、汚れや浮いた旧塗膜の上に塗料を乗せても、しっかり密着しないからです。下地がはがれれば、その上の塗装も一緒にはがれます。土台が崩れた地面の上に、どれだけ立派な家を建てても傾くのと同じ理屈ですね。
大規模修繕は、ざっくりこんな順番で進みます。今回の記事が扱うのは、足場の次に来る②と③です。
私の物件は、インスペクション(建物診断)の見積もりで、最低ラインの120万円から、全部やると255万円まで幅がありました。そのうち足場だけで53万円。決して安い工事ではありません。だからこそ、見えない②③で手を抜かれると、お金をかけた塗装の寿命まで縮んでしまう——ここを施主として一番気にしていました。
▶ 費用と時期の全体像はこちら 戸建ての大規模修繕費用と時期|「足場をかけるなら、どこまでやるか」問題 ▶ 前の工程(足場)の話はこちら 足場代53万円の中身、全部見せます【密着・足場編】まとめると、塗装の出来は塗る前で決まる。見えない②③こそ、仕上がりを左右する本番です。
そもそも、なんで高圧洗浄が必要なの
高圧洗浄は、塗料を密着させるための「土台掃除」です。旧塗膜・コケ・チョーキング(粉化)・汚れを落とさないと、その上に塗った塗料は一緒にはがれてしまいます。
理由はシンプルで、外壁や屋根の表面には、長年の汚れやコケ、それからチョーキングと呼ばれる粉が付いているからです。チョーキング(白亜化)というのは、塗膜が紫外線などで劣化して、表面が粉っぽくなる現象のこと。築10年くらいの壁を手でこすると、白い粉が指につくアレです。
この点は感覚論ではありません。国土交通省の「計画修繕ガイドブック」でも、建物の経年劣化による不具合の例として「外壁塗装の粉化(チョーキング)」や「外壁のひび割れ」がはっきり挙げられています。つまり、これは“どの建物にも起きる前提”の劣化なんです。
この粉が残ったまま塗料を乗せると、塗膜が粉の層の上に浮いた状態になります。両面テープを、ホコリの上から貼るようなイメージですね。最初はくっついて見えても、すぐにペリッとはがれる。だから、塗る前に水で徹底的に流して、塗料が下地に直接食いつく状態をつくる必要があります。
屋根の高圧洗浄。職人さんがホースで一面ずつ流していきます。洗った後と前で、屋根の色が明らかに違うのが分かります
うちの物件は重量鉄骨造で屋根面積もそれなりにあるので、洗浄だけでもかなりの時間がかかっていました。屋根の頂上から下に向かって、ゆっくり何度も流していく。見ていると単純作業に見えますが、洗い残しがあるとそこだけ密着が悪くなるので、地味に神経を使う工程です。
駐車場や地面まわりも、ついでじゃなく意味があって洗う
高圧洗浄は壁と屋根だけではありません。駐車場の土間や、建物まわりの地面も洗います。「そこは塗らないのに、なんで洗うの?」と思いますよね。
理由は2つあります。1つは、洗浄で飛び散った汚れた水やチョーキングの粉が地面に溜まるので、それを流しておかないと乾いたあとに汚れが再付着してしまうこと。もう1つは、入居者さんや近隣への配慮です。賃貸物件なので、工事で建物の足元が汚れたままだと、住んでいる人の印象が悪くなります。仕上がりと住み心地、その両方のための洗浄なんです。
駐車場まわりの土間洗浄。塗らない場所も洗うのは、汚水の再付着を防ぐためと、入居者への配慮の意味があります
というわけで、高圧洗浄は「塗装の前提条件」です。ここを省く、あるいは家庭用レベルの弱い水圧で済ませる業者だと、塗料が長持ちしません。見積書に高圧洗浄の項目があるか、まず確認してみてください。
洗ったあとの乾かす時間を甘く見ない
洗ったら、しっかり乾かしてから塗る。この「乾燥待ち」も省けない工程です。乾く前に塗ると、水分が閉じ込められて塗膜剥離の原因になります。
高圧洗浄で大量の水を浴びせるので、外壁や屋根はびしょ濡れになります。この水分が中までしっかり乾く前に塗料を塗ると、水分が塗膜の下に閉じ込められます。やがてその水分が悪さをして、塗膜のふくれ・はがれにつながるんです。
どのくらい乾かすかは季節や天気で変わりますが、一般的には丸一日ほど乾燥時間をとります。つまり「洗ったその日に塗り始める」というのは、本来かなり無理がある進め方なんです。
💡 ここがポイント:雨で工期が延びるのは、手抜きどころか正常な判断です。梅雨や雨の多い時期は乾燥が進まないので、無理に晴れ間を狙って塗るより、しっかり乾くまで待ってくれる業者のほうが信頼できます。「予定より数日延びました」と連絡が来ても、それは多くの場合、丁寧さの裏返しです。
施主側の心理として、工期が延びると「ちゃんと進んでるのかな」と不安になります。私もそうでした。でも、洗浄と乾燥の段階で焦らせてしまうと、職人さんが乾く前に塗らざるを得なくなる。結果的に損をするのは建物のオーナーです。ここは、ぐっとこらえて待つのが正解だと考えています。
まとめると、乾燥は塗装の品質に直結する見えない工程。工期の遅れ=悪、と決めつけないことが、結果的に長持ちする塗装につながります。
下地工事って何してるの
下地工事は、ざっくり「ケレン(サビ・旧塗膜落とし)」と「ひび割れ補修」の2つ。サビや割れを残したまま塗っても、そこから劣化が再発するので意味がありません。
下地工事には専門用語が出てきます。まずケレン。これは、サンドペーパーやワイヤーブラシで、浮いた旧塗膜やサビを削り落とす作業のことです。同時に、つるつるの表面にあえて細かい傷をつけて、塗料の食いつきを良くする「目荒らし」も含みます。
うちは重量鉄骨造なので、鉄部のサビ対策が特に重要でした。サビを残したまま上から塗っても、内側でサビが進行して、いずれ塗膜を押し上げてはがしてしまう。だからサビをしっかり落としてから、サビ止め(赤い下塗り)を入れる。この順番を飛ばすと、何年も持たせるための塗装が台無しになります。
もう1つがひび割れ(クラック)の補修です。外壁にできた細かい割れを埋めずに塗ると、そのひびから雨水が壁の中に入り込みます。先ほどの国土交通省ガイドブックでも、「外壁のひび割れ」は代表的な経年劣化症状として挙げられていました。放置すれば、雨漏りや躯体の腐食につながる入り口になります。
南側1階の壁面、補修前の状態。タイルの目地に縦のひび割れが入っているのが分かります。こういう箇所を1つずつ拾って埋めていくのが下地工事です
この写真は「補修前」の状態です。塗ってしまえば見えなくなる割れですが、ここを埋めるかどうかで、数年後の雨漏りリスクが変わります。完成後の見た目はどちらも同じ。だからこそ、施工中にこういう箇所をきちんと拾えるかどうかが、業者の力量です。
ちなみに、中古の戸建てを買う前にこういう劣化を見抜く方法として、私はホームインスペクション(建物診断)を入れました。そのとき15箇所の指摘を受けて、修繕200万円コースになった話は別記事にまとめています。買う前・直す前の「現状把握」という意味で、下地の話と地続きです。
▶ 買う前に劣化を見抜いた実録はこちら 【実録】千葉の戸建てでホームインスペクションを入れたら15箇所指摘→修繕200万コースだった話まとめると、下地工事はサビと割れを直す工程。ここを残して塗るのは、ひびの入った土台の上に新築するようなものです。
洗浄下地は手抜きしてもバレない工程
洗浄と下地は、手を抜いても素人にはまず気づけない工程です。だからこそ、ここをどう扱うかに業者の姿勢が出ます。これが、この記事で一番伝えたい視点です。
ここまで読んで気づいた方もいると思いますが、洗浄も下地も、塗ってしまえば全部見えなくなります。写真映えもしません。完成後の家を見ても、洗浄を2回やったか手早く1回で済ませたか、サビをどこまで落としたかは、素人目には判別できません。
つまり、業者からすると一番ごまかしが効く工程なんです。逆に言えば、見えない工程をどれだけ丁寧にやるかに、その業者の本気度がそのまま出ます。私が今回、洗浄後の乾燥待ちや、ひび割れの「補修前」写真を1枚ずつ記録してもらったのも、ここを見えるようにしておきたかったからです。
この「見えにくさ」は、トラブルの多さにもつながっています。国民生活センターによると、訪問販売によるリフォーム工事の相談は毎年1万件前後、なかでも「点検商法」(突然訪問して不安をあおり契約させる手口)の相談は2024年度に約1万9千件まで増えています。工事の中身が見えにくいリフォームだからこそ、悪質な勧誘や雑な施工が起きやすいわけです。
では、施主側はどこを見れば「見えない工程まで丁寧な業者」を見分けられるのか。私が実際に意識したチェックポイントを挙げておきます。
✅ 見えない工程で“丁寧な業者”を見抜くチェックリスト
まとめると、見えない工程をどう扱うかが業者選びの分かれ目です。完成後の見た目ではなく、施工中の記録と説明で判断するのがコツです。
ここが甘いといい塗料を塗っても台無し
洗浄・下地が甘いと、次の塗装でどれだけ高グレードの塗料を使っても、本来の耐用年数より早くはがれます。土台があってこその塗装です。
塗料には、グレードによって「10年もつ」「15年もつ」といった目安の耐用年数があります。でもそれは、下地がきちんと整っていることが前提の数字です。密着不良の上に塗った塗膜は、メーカーが想定する年数を待たずにはがれてしまいます。
せっかく予算を足して上のグレードの塗料を選んでも、土台の②③が甘ければ、その投資は回収できません。逆に、洗浄と下地が丁寧なら、選んだ塗料の性能をきちんと使い切れます。お金をかける順番として、まず土台、それから塗料、という意識が大事だと考えています。
では、その肝心の塗料選びと、雨漏りを止めるシール工事はどうだったのか。次の工程である「塗装・シール編」で、屋根の3回塗りや、塗料グレードと金額の関係を写真つきで解説しています。今回の②(土台づくり)と合わせて読むと、修繕全体の流れがつながります。
▶ 次の工程(塗装・シール)はこちら 塗料のグレードで耐用年数とお金が決まる|屋根塗装・シール・付帯部の中身【密着・塗装編】まとめると、②③の土台があってはじめて、塗料はその性能を発揮します。順番を間違えないことが、損をしないコツです。
まとめ:地味な工程ほど業者の本気が出る
今回は、大規模修繕の「洗浄・下地編」をお届けしました。要点を振り返ります。
📌 この記事のまとめ
大規模修繕は、足場・洗浄・下地・塗装・防水と工程が続きます。どれも見えにくいぶん、不安になりやすい工事です。だからこそ、各工程が「なぜ必要か」を知っておくだけで、業者とのやりとりがぐっと楽になります。家を持つ予定の方にも、いつか必ず関わってくる話です。
▶ シリーズの全工程はこちらから 【密着】築29年・鉄骨物件の大規模修繕に潜入|足場から完成まで全工程を実況します✍️ この記事を書いた人|ほげたろう
宅建士(2014年取得)・FP1級(2019年取得)保有。今は不動産テック企業でAIを使った不動産価格の査定システムを開発。「家を売るとき・買うときの情報格差をなくす」がミッション。飛び込み営業時代や不動産投資の失敗も含めたリアルな体験と、日々データと格闘するエンジニア目線の両方から「不動産ゼロからナビ」を運営。4人家族、地方在住。「難しそう」を「なんとかなる」に変える情報を発信中。