塗料のグレードで耐用年数とお金が決まる|屋根塗装・シール・付帯部の中身【密着・塗装編】
築29年の鉄骨アパートの大規模修繕に密着しているこのシリーズも、いよいよ工事の中身に入っていきます。今回は、屋根の塗装と、シール(防水のための充填材)の工程です。
大規模修繕でいちばん「何にお金がかかっているのか分かりにくい」のが、この塗装まわりだと思います。屋根を塗るだけでしょ、と思っていると見積もりの金額に身構えますし、ちゃんと塗ってくれているのかどうかも、素人には確かめようがありません。ここに不安を感じる人は多いはずです。
先に結論を言うと、屋根塗装は「下塗り→中塗り→上塗り」の3回塗りが基本で、金額の大半は塗料のグレード(=耐用年数)で決まります。そして、雨漏りを本当に止めているのは塗装ではなく「シール」の打ち替えです。さらに、工事の良し悪しは、現場の紫色のマスキングテープを見れば素人でもある程度判断できます。
私は宅建士(2014年取得)・FP1級(2019年取得)を持ち、今は不動産テック企業でAIを使った不動産価格の査定システムを開発しています。今回は自分の持ち物件で、見積もり255万円の工事に実際にお金を払って立ち会いました。その現場写真とあわせて、塗装とシールの「見えなくなる前」を全部お見せします。
屋根の下塗りが「赤」でも、失敗じゃないんです
屋根塗装は、1回塗って終わりではありません。「下塗り→中塗り→上塗り」の3回塗りが基本です。工事の途中で屋根がいったん赤茶色になりますが、これは失敗でも手抜きでもありません。
3回塗るのは、それぞれに別の役割があるからです。最初の下塗りは、金属面と上塗り塗料をくっつける接着剤の役割と、鉄部の錆を止める役割を兼ねています。今回の物件は重量鉄骨造で、屋根も金属。鉄は塗膜が切れたところから錆びていくので、ここで錆止めをしっかり入れておくことが、屋根を長持ちさせる土台になります。続く中塗り・上塗りは、色をつけながら塗膜(とまく=塗料の膜)の厚みを確保し、紫外線や雨から屋根を守る層をつくる工程です。同じ色を2回に分けて塗るのは、規定の塗布量を確保し、ムラや塗り残しをなくすためです。
今回の屋根も、下塗りの段階では下の写真のように赤茶色になりました。それが上塗りまで終わると、最終色の緑に変わります。並べて見ると同じ屋根とは思えませんが、赤は錆止め、緑が完成色です。塗料メーカーがあえて下塗りに色をつけているのは、塗り残しがひと目で分かるようにするためでもあります。
下塗りの赤茶色(左)と、上塗り完了後の緑(右)。同じ屋根でも、工程によって色がまったく変わります。
だから、工事中に屋根が赤くなっていても慌てる必要はありません。むしろ、錆止めの工程をきちんと踏んでいる証拠だと考えてよいと思います。
塗料のグレードで、耐用年数とお金がほぼ決まる
塗装の見積もり金額の大半は、どのグレードの塗料を使うかで決まります。グレードが上がるほど次の塗り替えまでの年数(耐用年数)が延び、その分だけ価格も上がっていきます。
理由はシンプルで、塗料には耐久性で段階があるからです。一般的に「ウレタン → シリコン → ラジカル → フッ素 → 無機」の順で長持ちし、原料が高くなるほど価格も上がります。耐用年数の目安はシリコン系で十数年、フッ素系でそれ以上などと言われますが、立地・下地の状態・施工の質で変わるため、数字を一律に当てはめるのは禁物です。あくまで「ランクが上がると寿命とお金が一緒に上がる」という関係だけ押さえておけば十分です。
ここで、足場編で書いた話とつながります。足場は二度かけないのが鉄則で、私は188万円ではなく255万円のフルプランを選びました。塗料を1ランク落として10万円浮かせたとしても、寿命が数年縮んで「次に足場をかける日」が早く来るなら、足場代(数十万円)が前倒しになり、トータルでは損をします。だから塗料は「今いくら安いか」ではなく、「次に足場をかけるのは何年後か」から逆算して選ぶのが合理的だと考えています。
雨漏りを止めるのは、塗装じゃなくて「シール」でした
屋根や外壁の塗装は「面」を守る工事です。雨漏りを止める主役は、実は塗装ではなくシーリング(シール)の打ち替えのほうでした。
雨が建物に入ってくるのは、広い「面」よりも、サッシ廻りやパラペット(屋上まわりの立ち上がり壁)の継ぎ目、外壁のジョイント部分といった「すき間」からです。こうした場所に詰めてあるシールは、紫外線で硬くなって縮み、やがてひび割れます。塗装をどれだけきれいに仕上げても、シールが切れていればそこから水が入る。だから古いシールを撤去して打ち替える工程が欠かせません。
今回も、サッシのまわりを打ち替えました。下の写真は、シールを充填し直しているところです。紫色のテープで周りを養生し、はみ出さないように仕上げています。
サッシ廻りの防水シール施工。紫のマスキングテープで養生し、継ぎ目にシールを打ち直しています。
屋上まわりのパラペットの継ぎ目も、同じように補修しています。
パラペット継ぎ目のシール補修。古いシールを撤去し、紫のテープで養生してから新しいシールを充填していきます。
国土交通省の「計画修繕ガイドブック」でも、修繕は破損が起きる前に予防的に行うのが基本だとされています。劣化を放置して外壁の破損から雨水が住戸内に入ってしまうと、入居者に一時退去してもらう必要が生じ、宿泊費や浸水した所持物の補償まで発生する。そうなる前に塗装やシールで劣化を食い止めておくほうが、結果的に工事費を抑えられる、と明記されています。だからシールは「まだ大丈夫そう」に見えても、足場があるうちにまとめて替えておくのが理にかなっています。
換気フードまで塗るのには、理由があります
屋根や壁だけでなく、換気フード・雨樋(あまどい)・破風(はふ)といった付帯部(ふたいぶ)も塗ります。一見地味な工程ですが、ここを塗るかどうかで、仕上がりの印象と建物の寿命が変わります。
付帯部の多くは金属でできています。塗らずに放置すると、そこだけ錆びて先に傷み、せっかく塗ったばかりの壁よりも早く劣化します。色も褪せていくので、建物全体が古びて見える原因にもなります。そして、付帯部をまとめて塗れるのは、足場がある今しかありません。次の足場まで待っていると、その間にどんどん傷んでしまいます。
南側2階・出窓の換気フードを上塗りしたところ。周りを養生し、フードだけを塗り分けています。
付帯部は面積が小さいぶん、見積もりで省かれたり、ざっくりまとめられたりしやすい部分です。でも、金属の付帯部こそ塗っておく価値がある。見積もりを見るときは、付帯部の塗装がちゃんと項目として入っているかを確認しておくとよいと思います。
紫のマスキングテープは、いい業者のサインです
専門知識がなくても、いい工事かどうかを見抜くヒントがあります。紫(または緑)のマスキングテープで、塗らない部分がきれいに養生されているか。これは、丁寧な業者かどうかを判断するひとつのサインになります。
養生はとても手間がかかる作業で、しかも仕上がりに直結します。境界線がまっすぐで、テープがめくれずに密着している現場は、目に見えない下地処理や塗布回数も丁寧であることが多いです。逆に、養生が雑な現場は、見えなくなる工程も省かれがちだと考えてよいと思います。これまでの写真にも、サッシ廻りや換気フードに紫のテープがきれいに貼られている様子が写っていました。
実際、国民生活センターには、訪問販売や点検商法によるリフォーム工事の相談が毎年多く寄せられています。報告されている事例の中には、「契約では塗れるところは全部塗ると言われたのに、一部が塗られていなかった」「塗膜の剥がれを処理する下地処理や、目地の補修が行われていなかった」といったものもあります。省かれてしまうのは、まさに養生・下地処理・付帯部・シールといった“仕上がると見えなくなる工程”です。だからこそ、そこが丁寧な業者は信頼できる、と逆から考えることができます。
私自身、別の物件を買うときにホームインスペクション(住宅診断)を入れて、15箇所の指摘を受けた経験があります。一度プロの目を通しておくと、見積もりのどこが妥当でどこが省かれているのか、自分でも判断しやすくなります。
業者は「高い・安い」だけで選ばないこと。見えなくなる工程をちゃんとやるかどうかで選ぶ。紫のテープは、その入り口の判断材料になります。
まとめ:塗装とシールは「見えなくなる前」を見ておく
今回の塗装・シール編をまとめます。
- 1屋根は「下塗り→中塗り→上塗り」の3回塗り。途中で赤くなるのは錆止めで、失敗ではない。
- 2金額の大半は塗料のグレード(=耐用年数)で決まる。「次の足場まで何年もたせるか」から逆算して選ぶ。
- 3雨漏りを止める主役は、塗装ではなくシールの打ち替え。継ぎ目は足場があるうちにまとめて替える。
- 4換気フードなどの付帯部も塗る。省かれやすいので見積もりで要確認。
- 5養生・下地・付帯部という“見えなくなる工程”の丁寧さが、業者の質を映す。紫テープはその目印。
塗装とシールは、仕上がってしまうと中身が見えなくなる工程です。だからこそ、工事中の写真を残しておくこと、そして見積もりの段階で「どこまでやるか」を確認しておくことが、数年後の後悔を防ぐことにつながります。
次回はいよいよ工事の最後、屋上の防水工事と、今回の大規模修繕の総額公開です。255万円の見積もりが、最終的にどうなったのか。続きは「防水・総額編」でお伝えします。
✍️ この記事を書いた人|ほげたろう
宅建士(2014年取得)・FP1級(2019年取得)保有。今は不動産テック企業でAIを使った不動産価格の査定システムを開発。「家を売るとき・買うときの情報格差をなくす」がミッション。飛び込み営業時代や不動産投資の失敗も含めたリアルな体験と、日々データと格闘するエンジニア目線の両方から「不動産ゼロからナビ」を運営。4人家族、地方在住。「難しそう」を「なんとかなる」に変える情報を発信中。