見積もり255万円が、請求240万円になった話|大規模修繕の総額を全部公開【密着・総額公開編】
千葉市内にある築29年・重量鉄骨造3階建ての賃貸戸建て。その大規模修繕に施主として密着してきたこのシリーズも、今回が最終回です。前回の塗装・シール編の最後に「次回は屋上の防水工事と、総額公開です」とお伝えしました。約束どおり、工事の最後の工程と、見積もり255万円がいくらで着地したのかをお見せします。
大規模修繕でいちばん落ち着かないのは、工事の中身よりも「最後に追加請求が来るんじゃないか」という不安だと思います。始まってから「開けてみたら思ったより傷んでいました」と言われて、金額がふくらんでいく。そういう話は珍しくありません。私自身、支払いが終わるまでは落ち着きませんでした。
先に結論を言うと、最終金額は240万7,600円(税込)でした。255万円のフルプランに対して14万2,400円下がり、追加請求はゼロ。理由は、現場を見た業者が「これは要りません」と工事を自分から削ってきたからです。
私は宅建士(2014年取得)・FP1級(2019年取得)を持ち、今は不動産テック企業でAIを使った不動産価格の査定システムを開発しています。今回は当初の見積書と最終の見積書を両方手元に置いて、差額がどこで生まれたのかを1円単位で追いました。最後の工程である屋根側溝の防水から、足場の解体、そして総額の答え合わせまで。読み終わるころには、見積もりに怯えるのではなく「この業者は信頼できるか」を自分の目で判断する基準が手に入っているはずです。
最後の工程は、完成すると誰にも見えない場所だった
シリーズの1回目で公開した工程表の⑦「屋根側溝ウレタン塗膜防水」。今回の工事で最後に手を入れたのは、屋根のまわりをぐるりと走っている排水側溝(はいすいそっこう)の防水でした。工事が終われば地上からは絶対に見えない場所です。でもここは、そもそも私が修繕に踏み切るきっかけになった箇所のひとつでもあります。
なぜ見えない場所が最後まで残るのか。理由は単純で、防水は塗装が乾いてからでないと施工できないからです。屋根を塗って、パラペット(屋上まわりの立ち上がり壁)の天端を塗って、その仕上がりが落ち着いてから、最後に水が流れる溝に防水層をつくる。順番を守らないと、あとから塗った塗料で防水層を傷めてしまいます。
そして、ここは工事の必要性がいちばんはっきりしていた場所でもありました。工事の前に入れたホームインスペクション(住宅診断)で、報告書に「急ぎ対応」と書かれた指摘は2つだけ。そのうちの1つが「屋根周囲の排水溝 塗布防水の剥がれ」でした。ドローンで撮った写真に、防水層がめくれている様子がはっきり写っていたんです。
ちなみに、もう1つの【急ぎ対応】は「屋上パラペット笠木のコーキング亀裂」でした。こちらは前回の塗装・シール編でお伝えしたシールの打ち替えで対応済みです。つまりこの回で、急ぎとされた2箇所がようやく両方とも片づくことになります。
これは私の感覚だけの話ではありません。国土交通省の「計画修繕ガイドブック」でも、修正すべき劣化の例として、屋根については「塗装や防水処理の劣化によって、漏水や雨漏りが発生」することが挙げられています。防水の劣化は、放っておくと建物の中に水が入る入口になる。だから「見えないから後回し」がいちばん危ない部分でもあります。
つまり、大規模修繕でいちばん最後に来る工程は、いちばん地味で、いちばん確認しづらく、それでいて雨漏りに直結する場所です。完成後の見た目には1ミリも影響しないので、施主が意識して見に行かないと、何をされたのか永遠にわからないまま終わります。
あわせて読みたい【実録】千葉の戸建てでホームインスペクションを入れたら15箇所指摘→修繕200万コースだった話屋根側溝の防水は「シール+ウレタン」の二段構え
側溝の防水は、1回塗って終わりではありませんでした。入隅(いりずみ)のシール処理 → プライマー(下塗り) → ウレタン塗膜防水という順番で、層を重ねてつくります。見積書上も「屋根排水路入隅シール」と「屋根排水路ウレタン塗膜防水」は別々の項目として立っていました。
なぜ2つに分かれるのか。役割がまったく違うからです。
① 入隅シール ── 水が最初に抜ける「角」をふさぐ
水が漏れるのは、広い平らな面ではなく、たいてい角と継ぎ目からです。側溝の底と壁がぶつかる角は、建物が動くたびに一番力がかかる場所で、そこに小さな隙間ができると水がまっすぐ内部へ向かいます。だから、防水層を塗る前に、この角をシール材で埋めて丸みをつけておく。塗装編で「雨漏りを止めているのは塗装ではなくシールだった」と書きましたが、屋根の上でも同じことが起きています。
② ウレタン塗膜防水(密着工法)── 継ぎ目のない膜で覆う
側溝のように、細長くて角が多く、排水口が途中にあるような複雑な形の場所では、シート状の防水材はうまく貼れません。液体を塗って膜をつくるウレタンなら、どんな形でも継ぎ目のない一枚の膜で覆えます。しかも塗る前にプライマーという下塗り材を入れて、下地との密着を確保する。ここでも、洗浄・下地編で書いた「塗る前の下ごしらえで決まる」という話がそのまま当てはまります。
まとめると、側溝の防水は「角をふさぐ」と「面を覆う」の二段構え。片方だけでは水は止まりません。見積書に「防水一式」としか書かれていない場合は、下地処理と入隅の処理がどう入っているかを聞いてみると、業者の考え方が見えてきます。
前回の記事塗料のグレードで耐用年数とお金が決まる|屋根塗装・シール・付帯部の中身【密着・塗装編】清掃・手直しと足場解体で、工事はやっと終わる
防水が終わっても、工事はまだ終わりません。工程表の最後、⑧「清掃・手直し」が残っていて、そのあとにようやく足場の解体が来ます。施主が現場を見るチャンスは、足場が外れる前が最後です。ここを逃すと、高い場所は二度と近くで確認できません。
私が足場のあるうちに見ておいたのは、次のような点です。
そして足場の解体です。ここで思い出してほしいのが、足場編で公開した見積明細の中身。ガードマンの費用が「仮設・解体時」として2名分計上されていました。足場は組むときと外すとき、二度とも人手と交通誘導が必要になります。だから足場代は高く見える。実際に解体の日、また道路にトラックが停まり、部材が一本ずつ下ろされていくのを見て、あの見積もりの意味を改めて理解しました。
約4週間かけて組み上げてきたものが、最後は半日ほどで消えていきます。建物の周りが一気に明るくなって、工事が終わったことを実感する瞬間でした。
あわせて読みたい足場代53万円の中身、全部見せます|大規模修繕の足場はなぜ高いのか【密着・足場編】【答え合わせ】255万円の見積もりは240万7,600円になった
お待たせしました。このシリーズをずっと引っ張ってきた「見積もり255万円の答え合わせ」です。
最終金額は240万7,600円(税込)。当初のフルプラン255万円から、14万2,400円下がりました。
まず前提を整理します。ホームインスペクションで15箇所の指摘が出たあと、最初に出てきた屋根・外壁の見積もりは188万円でした。そこから「足場をかけるなら、どこまでやるか」で見直してもらったところ、必要最低限だけなら約120万円、この機会にやっておくべき項目まで含めると約255万円。私は255万円のフルプランを選びました。足場を二度かけたくなかったからです。
そのうえで、実際にどう着地したのかがこちらです。
| 項目 | 当初見積(フルプラン) | 最終金額 |
|---|---|---|
| 工事費・諸経費など | 2,268,672円 | 2,184,672円 |
| 値引き(端数調整) | −30,490円 | −75,945円 |
| 合計(税込) | 2,550,000円 | 2,407,600円 |
差額の14万2,400円は、内訳がきれいに2つに分かれます。
ここで強調しておきたいのは、金額が下がったこと以上に、「増えなかった」という事実です。追加工事の請求はゼロ。足場を組んで近くで見れば、当初わからなかった劣化が新たに見つかっても不思議ではありません。実際、工事中に「ここも傷んでいますね」という会話は何度かありました。それでも見積書の金額は動かなかった。事前の調査と見積もりが、それだけ丁寧だったということだと受け止めています。
当初の見積書と最終の見積書を並べられたから、この答え合わせができました。工事が終わると見積書は用済みのように感じますが、何がいくらで、どこが変わったのかを残しておくと、次の修繕のときにそのまま判断材料になります。
削られたのは「シャッターボックス塗装7箇所」だった
この記事で一番お伝えしたいのは、ここです。信頼できる業者は、やらなくていい工事を自分から削ってきます。
0円になった項目は、シャッターボックス塗装(7箇所・8万4,000円)でした。当初の見積書では「足場をかけるので、この機会にやっておいた方がよい項目」として入っていたものです。それが最終の見積書では、数量が0、金額も0になっていました。
なぜ削られたのか。足場を組んで近くで確認したところ、塗り直しが必要なほどの劣化がなかったからです。地上から、あるいは事前の調査段階では「7箇所とも塗っておこう」という判断だったものが、実際に手が届く距離で見たら「今回は要りません」に変わった。つまり現場で見た結果が、そのまま見積書に反映されたわけです。
ここが、業者選びの本当の分かれ目だと思っています。私たちは見積もりについて、どうしても「増える方向」ばかりを警戒します。追加請求されないか、不要な工事を乗せられていないか。でも、その警戒はあくまで受け身です。
能動的に見るべきなのは、減額の提案が出てくるかどうか。工事を1つ減らせば、業者の売上はその分そのまま減ります。それでも「これは要りません」と言えるかどうかに、その会社の姿勢が出ます。しかも今回は、削るだけでなく値引きまで乗せてきました。
この逆をいくのが、いわゆる点検商法です。国民生活センターによると、訪問販売によるリフォーム工事については「契約をせかされて不要な工事をした」といった相談が寄せられており、点検に来たと言って訪問し、工事をしないと危険だと告げて契約させる手口についての相談も続いています。不安をあおって工事を増やす方向に持っていくのが、この手のやり方の共通点です。
相見積もりを取ると、つい総額の安さだけを比べたくなります。でも、それ以上に見てほしいのは「現場を見たあとに、内容が変わったかどうか」。契約後に一度も金額が動かない業者より、根拠を添えて増減を説明してくれる業者のほうが、中身を見ているということです。
ドローンで「錆」とされた場所は、実は塗装焼けだった
もう一つ、工事中にわかった発見があります。プロの診断報告書の指摘が、現場で覆ったのです。
工事前のホームインスペクションでは、ドローンで屋根まわりを撮影してもらいました。その報告書の指摘⑮に「パラペット笠木(かさぎ)に錆の発生」という項目がありました。屋上のヘリに被せてある金属のカバーが錆びている、という指摘です。鉄骨造の建物にとって錆は要注意なので、私も気にしていました。
ところが、足場を組んで職人さんが直接触って確認したところ、これは錆ではありませんでした。工事の作業報告書には、その箇所についてはっきりこう書かれています。「錆ではなく塗装焼けでした」と。
誤解のないように書いておくと、だからといって工事が不要になったわけではありません。笠木の焼けた部分は補修され、その上から塗装もきちんと行われています。金額も減っていません。錆でも塗装焼けでも、放置すれば見た目が悪くなり、いずれ塗膜が機能を失うことに変わりはないからです。
それでも、この一件は私にとって大きな学びでした。ドローンで撮った写真は非常に有用ですが、あくまで「遠くから見た画像」です。触れない、叩けない、裏側が見えない。だから、写真だけでは錆と塗装焼けの区別がつかないことがある。
インスペクションの記事でも書きましたが、私は住宅診断を「答え」ではなく「どこを深掘りすべきかの地図」だと考えています。今回、その考えが実例で裏づけられました。地図があったから足場を組む決断ができ、足場を組んだから正確な状態がわかった。この順番が大事なんだと思います。
そして施主の側からすると、もう一つ教訓があります。報告書の指摘と、実際に行われた工事を突き合わせて確認すること。今回、作業報告書に「錆ではなく塗装焼けでした」と書き添えてくれたから、私はこの違いを知ることができました。指摘に対して何をしたのかを写真とコメントで返してくれる業者は、それだけで信頼に値します。
240万円は高かったのか|次の足場は何年後かで考える
240万7,600円。1回の出費としては、決して小さくありません。これが高かったのかどうかは、「次に足場をかけるのは何年後か」で考えると判断できます。
国土交通省の「計画修繕ガイドブック」には、部位ごとの修繕周期の目安が整理されています。屋根防水と仮設工事について抜き出すと、こうなります。
| 修繕項目 | 工事区分 | 修繕周期の目安 |
|---|---|---|
| 仮設工事(足場) | 仮設 | 12〜15年 |
| 屋根防水 | 補修・修繕 | 12〜15年 |
| 屋根防水 | 撤去・新設 | 24〜30年 |
| 外壁塗装等 | 補修・塗替 | 12〜15年 |
私の物件は築29年です。表に当てはめると、防水は「撤去・新設」の24〜30年ゾーンの終盤に入っていたことになります。ぎりぎりではなく、むしろ少し遅いくらいのタイミングだったわけです。
そして足場・屋根・外壁の周期が、どれも12〜15年でそろっている点にも注目してください。これが「足場をかけるなら、屋根も外壁も防水もまとめてやる」が合理的になる理由です。バラバラにやると、そのたびに足場代(今回は約54万円)が発生します。
そのうえで、240万7,600円を年数で割ってみます。次の大きな修繕までを12年と見れば、年およそ20万円、月にならすと約1万7,000円。この物件はローン返済後の手残りが月4万7,000円あるので、そこから1万7,000円をよけておけば、次の工事は貯金を崩さずに迎えられます。診断の記事で収支を公開したときには意識していませんでしたが、実際の請求額が出てはじめて、積立額が具体的な数字になりました。
実際、国交省のガイドブックでも、修繕資金の確保でもっとも確実な方法は家賃収入から一定額を積み立てることとされていて、長期修繕計画の期間中にかかる修繕費の合計を月数で割った金額を積立額の目安にする、という考え方が示されています。自宅の場合も理屈は同じで、家賃収入の代わりに毎月の家計から積むことになるだけです。
240万円という数字を「痛い出費」と見るか、「12年分の安心を前払いした」と見るか。周期の数字を知っているかどうかで、受け止め方はかなり変わると思います。
工事が終わったら、もう一つやることがある
足場が外れて、支払いが済んで、これで終わり——ではありません。最後にやるべきことがあります。記録を残すことです。
国土交通省のガイドブックでは、計画修繕を「計画 → 点検 → 検討と調整 → 実施 → 記録 → 見直し」という一連の手順として整理しています。工事の実施は、6つのうちのたった1ステップにすぎません。そして記録については、最低限これだけは残しておくべきとされている項目があります。
なぜ記録が要るのか。ガイドブックには、修繕履歴があれば、その情報と合わせて点検することで正確な工事内容を検討でき、無駄な工事費用の負担を省くことにつながると書かれています。つまり記録は、次にお金を払いすぎないための資料です。「前回いつ、何を、いくらでやったか」がわからないと、次の見積もりが妥当かどうかを判断する基準を持てません。
賃貸物件の場合はもう一つ効きます。この物件には入居者さんが住んでいるので、次に空室になったとき、内見に来た人から過去の修繕状況を聞かれてもきちんと答えられる。メンテナンスされている建物だとわかれば、それは入居の後押しになります。売却するときも同じです。
そして、工事が終わったら計画そのものを見直す。使ったシール材の耐用年数が想定と違えば次の打ち替え時期が変わりますし、実際にかかった費用がわかれば、次回の修繕費の目安も更新できます。今回でいえば「屋根防水を築29年で実施、次は12〜15年後」という一行が、私の物件の新しい起点になりました。
このシリーズの4本の記事も、私にとってはその記録の一部です。足場・洗浄・下地・塗装・シール・防水を、写真と金額つきで残しておく。10年後にこれを読み返せば、次の判断はずっと楽になるはずです。
まとめ:足場が組まれた初日から、完成まで
トラックいっぱいの鋼管が運び込まれ、建物がぐるりと足場で囲われた着工初日から、約4週間。シリーズの1回目に載せたあの写真が、こうなりました。
正直に言うと、見た目は劇的に変わっていません。屋根の色が変わり、外壁の目地が整い、細かい金属部分の色が戻った。その程度です。でも、この工事の価値は見た目ではなく、これから10年以上、雨水が建物の中に入らない状態をつくったことにあります。
最後に、この最終回の要点を整理します。
大規模修繕は、金額が大きいぶん怖い工事です。でも、工程には決まった順番があり、金額には内訳があり、業者の質を見る手がかりもある。全部を知る必要はなくて、「足場をかけるなら、どこまでやるか」と「次の足場は何年後か」の2つを押さえておけば、判断の軸は立ちます。
シリーズの1回目で「最後の“総額の答え合わせ”まで、ぜひ一緒に見届けてください」とお願いしました。その答え合わせは、これで全部お見せしました。あなたの家の番が来たときに「難しそう」が「なんとかなる」に変わっていれば、この4回を書いた意味があります。長いあいだお付き合いいただき、ありがとうございました。
📚 密着シリーズ全4回はこちら
シリーズの目次【密着】築29年・鉄骨物件の大規模修繕に潜入|足場から完成まで全工程を実況します ① 足場編足場代53万円の中身、全部見せます|大規模修繕の足場はなぜ高いのか ② 洗浄・下地編なぜ高い塗料でも数年で剥がれるのか|洗浄・下地で手を抜く業者の見抜き方 ③ 塗装・シール編(前回の記事)塗料のグレードで耐用年数とお金が決まる|屋根塗装・シール・付帯部の中身※屋根の劣化事象(塗装や防水処理の劣化による漏水・雨漏り)、修繕項目ごとの修繕周期の目安、計画修繕の手順と修繕履歴として記録すべき項目、修繕資金の積立方法は、上記の計画修繕ガイドブックに基づきます。修繕周期の目安は、同ガイドブックが「長期修繕計画作成ガイドライン」(国土交通省)を基に整理した数値です。記載した金額は、いずれも筆者所有物件の実際の見積書によるものです。
宅建士(2014年取得)・FP1級(2019年取得)保有。今は不動産テック企業でAIを使った不動産価格の査定システムを開発。「家を売るとき・買うときの情報格差をなくす」がミッション。飛び込み営業時代や不動産投資の失敗も含めたリアルな体験と、日々データと格闘するエンジニア目線の両方から「不動産ゼロからナビ」を運営。4人家族、地方在住。「難しそう」を「なんとかなる」に変える情報を発信中。