「40代の3人に1人が金融資産ゼロ」。こういう見出しを見て、自分の口座残高を思い浮かべて少し落ち込んだことはないでしょうか。都内のマンションに住んでいて、住宅ローンを払いながら共働きで、それでも貯金は思ったほど増えていない。自分は下位3割なのかもしれない、と。

結論から書きます。この「金融資産ゼロ」は、貯金ゼロという意味ではありません。統計が持っている定義が作り出した影です。持ち家も、現金も、生活口座のお金も、その数字には最初から入っていません。

私は宅建士(2014年取得)・FP1級(2019年取得)を持ち、今は不動産テック企業でAIを使った不動産価格の査定システムを開発しています。仕事柄、資産をどう定義するかで評価額がまるごと変わる場面を毎日見ています。

この記事を読むと、3つの公的統計それぞれが何を数えて何を数えていないかがわかります。そして、自分の現在地を「金融資産」と「純資産」の2つの物差しで見られるようになります。見出しの数字に一喜一憂する時間が、そのまま住み替えや資金計画を考える時間に変わります。

目次

「40代の3人に1人が金融資産ゼロ」は何を数えた数字か

この見出しが指しているのは、単身世帯だけの数字です。二人以上世帯では5世帯に1世帯であり、「3人に1人」ではありません。

理由は、元データが世帯区分ごとに別々の数字を出しているからです。金融経済教育推進機構(J-FLEC)の「家計の金融行動に関する世論調査」は、二人以上世帯調査・単身世帯調査・参考としての総世帯の3種類を公表しています。この3つは非保有率がまったく違います。

2025年調査(2025年12月18日公表)の世帯主40歳代を見ると、次のようになっています。

世帯区分金融資産非保有中央値平均値
二人以上世帯18.8%500万円1,486万円
単身世帯32.1%100万円859万円

約3割は単身世帯の数字です。二人以上世帯は18.8%で、5世帯に1世帯という水準になります。2026年9月5日に配信されたある女性向けメディアの記事は「40代で貯金100万未満が最多」という見出しで、出典は総世帯調査の2024年版でした。総世帯は単身と二人以上を合算した参考値なので、単身世帯の高い非保有率が全体を押し上げます。

同じ「40代」でも、どの世帯区分を選ぶかで数字は2倍近く動きます。見出しを見たときに最初に確認すべきは、金額ではなく世帯区分です。

もう一段、内訳があります。同じ二人以上世帯でも、持ち家に住んでいるかどうかで数字が大きく分かれます。

住まい金融資産非保有中央値平均値
持ち家12.0%1,000万円2,225万円
非持ち家22.3%300万円1,421万円

持ち家世帯の非保有率は非持ち家世帯のおよそ半分で、中央値には3倍以上の差があります(いずれも全年齢の二人以上世帯)。「金融資産ゼロ」に分類される世帯は、賃貸側にかなり偏っています。持ち家に住んでいる人が「3人に1人がゼロ」という数字に自分を重ねるのは、そもそも母集団が違うということです。

「金融資産」の定義から抜け落ちている4つのもの

J-FLECの「金融資産」は、あなたが持っているお金の総額ではありません。将来に備えて意図的に取り分けた部分だけを指します。

定義は「運用のため、または将来に備えて蓄えている部分」

この調査で言う金融資産とは、運用のため、または将来に備えて蓄えている部分のことです。そして次の4つは明示的に除外されます。

  • 事業のために保有している金融資産
  • 土地・住宅・貴金属などの実物資産
  • 現金(タンス預金・手元の現金)
  • 預貯金のうち、日常的な出し入れや引落しに備えている部分

3つ目と4つ目が特に効きます。手元の現金は入りません。給与が振り込まれて家賃や光熱費が落ちていく口座の残高も、日常用と見なす限り入りません。実際、同調査では「金融資産」に日常的な出し入れ・引落しに備えている預貯金を加えたものを別途「金融商品」と呼んで区別しています。定義上、生活口座は最初から別枠なのです。

900万円持っていて「ゼロ」になる例

極端な例を作ってみます。以下はすべて架空のモデルケースです。

持っているもの金額統計上の扱い
給与振込・引落し兼用の口座600万円日常用として除外
手元の現金・タンス預金300万円現金なので除外
証券口座0円該当なし
合計900万円金融資産0円

合計900万円を持っている世帯が、定義に忠実に答えると「金融資産非保有」に分類されます。もちろん実際には、600万円のうちいくらかを「将来に備えた分」と申告する人が多いはずです。ただしその線引きは回答者の主観に委ねられており、統計側が検証する仕組みはありません。この点は記事の最後にもう一度戻ります。

借金は差し引かれない。カードローンで買った株も資産に入る

この調査の金融資産は、負債を引く前の総額です。借入があっても相殺されません。

調査では借入金残高を別の設問として聴取しており、金融資産保有額からは差し引かれない設計になっています。資産と負債は別々に集計される、という建て付けです。

したがって、極端に言えばカードローンで300万円を借りて株を買った世帯も、金融資産300万円として集計されます。逆に、コツコツ貯めた300万円を持つ無借金の世帯も同じ300万円です。この2世帯は統計上まったく同じ位置に並びます。

民間の推計ではここが違います。野村総合研究所は「純金融資産保有額」、つまり世帯が保有する金融資産の合計から負債を差し引いた額で階層を分けており、2025年2月13日発表の推計(2023年時点)では1億円以上5億円未満の富裕層が153.5万世帯、5億円以上の超富裕層が11.8万世帯、合計165.3万世帯・純金融資産469兆円としています。SNSでよく見るピラミッド図はこの区分です。J-FLECの数字とNRIの階層を並べて自分の位置を探すと、定義が食い違ったまま比較することになります。

家計調査で40代が「負債超過」に見えるカラクリ

総務省「家計調査(貯蓄・負債編)」では、40代の二人以上世帯は貯蓄より負債のほうが多く見えます。ただしこれは債務超過ではありません。資産側だけが計上されていないだけです。

2025年(令和7年)平均の結果(2026年5月19日公表)を見てみます。二人以上世帯全体では貯蓄現在高が2,059万円で7年連続の増加、貯蓄保有世帯の中央値は1,264万円。負債現在高は675万円で、そのうち住宅・土地のための負債が620万円と91.9%を占めます。負債のほぼ全部が住宅ローンです。

これを世帯主の年齢階級別に見ると、こうなります。

世帯主の年齢貯蓄現在高負債現在高純貯蓄額負債保有世帯の割合
40歳未満994万円1,882万円▲888万円64.3%
40〜49歳1,381万円1,483万円▲102万円67.0%
50〜59歳1,756万円743万円+1,013万円53.7%
平均2,059万円675万円+1,384万円37.5%

40〜49歳は102万円の負債超過、40歳未満は888万円の負債超過です。負債保有世帯の割合は40〜49歳の67.0%が全年代で最も高くなっています。

ただし家計調査の「貯蓄」に持ち家は含まれません。含まれるのは預貯金・生命保険・有価証券などの金融資産だけです。一方で住宅ローンは負債として満額計上されます。家を買うと、ローンだけが記録されて家そのものは記録されない。この非対称が「40代は負債超過」という見え方を作っています。

家を資産に入れると、40代の純資産は2,085万円になる

実物資産まで含めて計算すると、同じ40代が2,085万円の純資産超過になります。マイナス102万円とプラス2,085万円、どちらも公的統計の正しい数字です。 同じ40代でも、家計調査では純貯蓄が102万円のマイナス、全国家計構造調査では純資産が2085.5万円のプラスになることを示す比較図 同じ40代、物差しを変えるとこうなる 0円 家計調査(貯蓄・負債編)2025年平均 40〜49歳・二人以上世帯/純貯蓄額 ▲102万円 全国家計構造調査 令和6年 40歳代・総世帯/純資産総額(実物資産を含む) +2,085.5万円 総務省「家計調査(貯蓄・負債編)2025年平均」および「令和6年全国家計構造調査」より作成。前者は金融資産のみ、後者は宅地・住宅を含む。

理由は、実物資産を含めた資産・負債を出せる統計が別にあるからです。総務省「全国家計構造調査」は5年ごとの基幹統計で、直近は令和6年(2024年)10月・11月の実施。金融資産だけでなく、宅地資産と住宅資産を推計して純資産総額を算出します。家計資産・負債に関する結果は2026年8月28日に公表されました。

総世帯・2024年10月末日現在の世帯主40歳代は次のとおりです。

項目40歳代(参考)30歳代
金融資産残高1,137.0万円751.0万円
宅地資産1,377.3万円825.6万円
住宅資産657.5万円541.4万円
資産総額3,171.8万円2,117.9万円
金融負債残高1,086.3万円1,000.6万円
純資産総額2,085.5万円1,117.3万円

住宅資産が40歳代でピークを迎えるのは、住宅ローンを組んで家を取得する時期がここに集中するためです。同時に住宅・土地のための負債も40歳代(1,008.2万円)がピークになります。取得した家と、その裏側にあるローン。両方を同時に持っているのが40代という年代です。

片方だけ数える統計では負債超過に見え、両方数える統計では2,000万円の純資産超過に見える。変わったのは家計ではなく、物差しだけです。

3つの統計は目的が違う。使い分けの早見表

どの統計が正しいかという問いには意味がありません。目的が違う道具なので、知りたいことに合わせて選ぶだけです。

統計わかること持ち家の扱い負債頻度
J-FLEC 家計の金融行動に関する世論調査意識と行動(老後不安、貯蓄目標など)含まない相殺しない毎年
総務省 家計調査(貯蓄・負債編)金融資産の実額と負債の実額含まない別建てで計上毎年
総務省 全国家計構造調査実物資産を含む純資産含む差し引く5年ごと
(参考)NRI 純金融資産階層富裕層の世帯数規模含まない差し引く不定期

老後不安の広がりを知りたいならJ-FLEC。手元の金融資産が同世代と比べてどうかを知りたいなら家計調査。持ち家を含めた自分の本当の体力を知りたいなら全国家計構造調査です。住み替えを検討している人が見るべきは3つ目になります。

東京と千葉、純資産の差2,133万円の正体

都道府県別に純資産を見ると、東京都と千葉県の差はほぼ不動産で説明できます。金融資産の差はごくわずかです。

全国家計構造調査(総世帯・2024年10月末日現在)の都道府県別の数字を並べます。

都県純資産総額金融資産残高
東京都5,410.0万円(全国1位)1,865.2万円(全国2位)
千葉県3,276.3万円(全国7位)1,716.4万円(全国7位)
全国平均3,156.5万円1,527.2万円

純資産では2,133.7万円の差がついているのに、金融資産の差は148.8万円しかありません。差を作っているのは貯め方の違いではなく、持っている土地と建物の評価額の違いです。

これは都内から千葉への住み替えを考えている人にとって、両方向に効く事実です。都内マンションを売って千葉で広い家を買えば、統計上の純資産の評価額は下がる方向に動く可能性があります。一方で、千葉県の純資産総額は全国平均を上回る7位であり、金融資産残高も7位です。都内を離れることが資産形成の後退を意味するわけではありません。

大事なのは、住み替えを「いくらの家を買えるか」ではなく「売却後の手残り+新しい家の価値−新しいローン」で見ることです。売却価格の見立てとローンの組み方の両方が、この式に直接効いてきます。

正確に答えられるのは、口座を用途別に分けている人だけ

この一連の統計には、構造的な弱点がひとつあります。家計をシンプルに管理している人ほど、正確に答えられない設計になっていることです。

理由は、質問が「日常的な出し入れに備えている部分」と「将来に備えて蓄えている部分」の区別を回答者に求めるからです。口座を用途別に分けている世帯なら、貯蓄用口座の残高をそのまま書けば済みます。一方で、給与も生活費も貯蓄も1つの口座でまとめている世帯は、その場で頭の中で線を引かなければなりません。

結果として、面倒だからゼロと答える、あるいは少なめに答えるという行動が起こりえます。管理方法が違うだけの世帯が、統計上は別の階層に並ぶことになります。金融資産非保有の中には、本当に持っていない世帯と、分けていないだけの世帯が混ざっていると考えるのが自然です。

これは統計の欠陥を責める話ではありません。J-FLECの調査は意識と行動を追うことが目的であり、資産の総額を1円単位で把握する装置として作られていないというだけです。目的の違う道具を混ぜて使うから、ズレが生まれます。

まとめ:自分の現在地は、2つの物差しで測る

ここまでを振り返ります。

  • 「40代の3人に1人が金融資産ゼロ」は単身世帯の数字。二人以上世帯は18.8%(J-FLEC 2025年調査)
  • 「金融資産」の定義は、事業用・実物資産・現金・日常用預貯金を除外している
  • 負債は相殺されない。借りて買った資産も資産として計上される
  • 家計調査で40代が102万円の負債超過に見えるのは、住宅ローンだけを数えて家を数えていないから
  • 実物資産を含む全国家計構造調査では、同じ40代の純資産は2,085.5万円
  • 東京と千葉の純資産差2,133万円のうち、金融資産の差は149万円だけ

見出しの数字は、あなたの家計を測ったものではありません。定義の違う複数の物差しが、それぞれの目的で切り取った断面です。自分の現在地を知りたいなら、金融資産(すぐ動かせるお金)と純資産(家を含めた体力)の2つを別々に出してみてください。この2つを分けて把握できると、住み替えのタイミングも借入の上限も、他人の平均ではなく自分の数字で判断できるようになります。

とくに持ち家がある世帯は、純資産の大部分を不動産が占めます。そして純資産が増えるスピードを決めているのは、貯蓄額よりも住宅ローンの元金がどれだけ減っているかです。変動金利が上がっている局面では、毎月の返済額が変わらないまま元金の減りだけが鈍ります。純資産が思ったほど増えない原因が、家計ではなくローンの側にあるケースです。

自分のローンが今どういう状態にあるかは、返済予定表を見れば数分で確認できます。私自身の借入3,210万円の数字をすべて開示しながら、借入先5タイプの違いと審査で落ちない準備を整理しました。住宅ローンどこで借りる|借入先5タイプと審査に落ちない準備もあわせて読んでみてください。

📎 参考・出典

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的・税務的・投資的アドバイスではありません。記載内容は2026年9月時点の情報です。統計数値は各調査の公表時点のものであり、最新版は各機関のサイトでご確認ください。実際のご判断にあたっては、宅地建物取引業者・税理士・ファイナンシャルプランナー等の専門家にご確認ください。

執筆日:2026年9月7日/最終更新日:2026年9月7日/情報の時点:2026年9月


✍️ この記事を書いた人|ほげたろう

宅建士(2014年取得)・FP1級(2019年取得)保有。今は不動産テック企業でAIを使った不動産価格の査定システムを開発。「家を売るとき・買うときの情報格差をなくす」がミッション。飛び込み営業時代や不動産投資の失敗も含めたリアルな体験と、日々データと格闘するエンジニア目線の両方から「不動産ゼロからナビ」を運営。4人家族、地方在住。「難しそう」を「なんとかなる」に変える情報を発信中。

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