「相場より500万円安い!ちょっと待って、なんで?」

不動産探しをしていると、こういう物件に出会うことがあります。立地も広さも条件ぴったりなのに、なぜか周りより安い。

その「なぜか安い」の正体、実は「高低差」が原因のことがめちゃくちゃ多いです。

結論から言うと、高低差のある不動産は将来的に数百万〜最悪1,000万円超の出費が発生する可能性があります。「安い!」と飛びつく前に、この記事を5分だけ読んでみてください。


そもそも「高低差」って何が問題なの?

道路より土地が高い、お隣より自分の土地が高い——こういう「段差」がある場合、その崖や斜面が崩れないように擁壁(ようへき)という壁を作る必要があります。

この擁壁、とにかくお金がかかります。そして一度作れば終わりではなく、20〜50年で寿命が来て、また作り直しが必要になります。

つまり高低差のある不動産を買うということは、将来の巨額工事費も一緒に買うということ。「安い理由」がここにあるんです。


擁壁工事、実際いくらかかるの?

数字で見ると一目瞭然です。擁壁の工事費用は1㎡あたり3万〜10万円が相場(鉄筋コンクリート製の場合)。

高さ × 幅費用の目安ひとことメモ
1m × 10m約30〜100万円まだ許容範囲かも
2m × 10m約100〜200万円ここから一気に重くなる
3m × 10m約400万円前後車1台分がすっ飛ぶ
5m × 10m250万〜500万円土地より高くなることも

しかもこれ、擁壁本体の費用だけ。実際にはさらに追加費用がかかります。

  • 基礎工事費:4,000〜17,500円/m
  • 残土の処分費:6,000〜40,000円/㎥
  • 重機の運搬費:12,000〜18,000円
  • 道が狭い場合の通行規制費用(人件費)
  • 地盤が弱ければ地盤改良費(数十〜百万円超)
  • 古い擁壁の解体費:約40万円〜

💬 実際にあった話:「購入時に不動産会社から『擁壁は400万くらいで作り替えられますよ』と言われて購入。いざ建て替えを検討したら、5社に見積もりをとったら全部約1,000万円だった」という相談事例があります。(SuMiKa建築家相談事例より)

「なんとかなるだろう」は、ここでは命取りになりかねません。


「でも今は擁壁あるし、大丈夫じゃない?」——それが一番危ない

中古物件を見るとき、「すでに擁壁がある=問題なし」と思いがちですが、実はその古い擁壁こそが爆弾かもしれません。

昭和30〜40年代の住宅地には、今の法律では「不適格」とされる擁壁がたくさん残っています。石を積み上げただけの「石積み擁壁」や「大谷石擁壁」などがその代表。見た目では分かりにくいのが厄介です。

不適格擁壁の種類(これがあったら要注意!)

種類どんなもの?
空石積み擁壁石をコンクリートで固めずに積んだもの。危険擁壁に指定されている
大谷石積み擁壁昭和時代によく使われた。現在は法的に不適格
増積み擁壁古い擁壁の上にブロックを足したもの。強度不足
二段擁壁擁壁の後ろにもう一つ擁壁を作ったもの
コンクリートブロック擁壁ブロックは擁壁に使ってはいけない素材。違法扱い

しかも怖いのが、こういう不適格擁壁のある物件も、普通に市場で売られているということ。不動産会社が扱っているから安全、とは限りません。

地盤の専門家・門田浩一氏(地盤品質判定士)によると、過去の地震で被害を受けた擁壁のほとんどが「増積み・二段・空石積み」などの不適格タイプ。適格な擁壁では被害が少ないことが確認されています。(LIFULL HOME’S PRESS より)


擁壁って「誰のもの」かで、負担がまるで変わる

実はここが一番見落とされがちなポイント。擁壁は、「自分の土地の擁壁か、隣の土地の擁壁か」によって、修繕責任が全然違います。

基本的には高い土地(上側)の所有者が擁壁を管理するのが原則。つまり、高台の土地を買って擁壁も自分のものになる場合、将来の修繕費は全額自己負担です。

あなたの立場メリットリスク
上側(高台)眺望・日当たりが良い擁壁の修繕費が将来のしかかる
下側修繕義務を負わないことが多いお隣の擁壁が崩れてくる恐怖。対処困難

理想は「擁壁の所有権を持たずに、高台の住みやすさだけ享受できる」状態。境界線がどこにあるか、擁壁が自分の土地内にあるかどうかを事前にしっかり確認することが重要です。

また、2023年の改正民法で「管理不全土地管理命令」という制度ができ、隣人が管理しない擁壁について裁判所経由で対処できるようになりました。ただし申し立て費用は申請者(あなた)の負担。決して楽な手続きではありません。


「建て替えたい」と思ったら、また擁壁問題が出てくる

これも知らない人が多いポイント。古い不適格擁壁がある土地は、建て替え時に擁壁を新設してからでないと、建築確認申請が通りません。

つまり:家の建て替え費用 + 擁壁の工事費(数百〜1,000万円超)が同時にのしかかってくる、ということです。

さらに、高さ2m以上の擁壁工事は自治体への申請が必要で、許可が下りるまで約1ヶ月。その間は建築工事も止まります。


「安い物件」は本当にお得? 数字で比べてみよう

こんなケースで計算してみます。

項目内容
物件価格2,500万円
近隣相場3,500万円
高低差道路との高低差 約3m
擁壁の状態昭和50年代の石積み。不適格。

「1,000万円も安い!」と思いきや——

  • 擁壁の建て替え費用:約400〜600万円
  • 既存擁壁の解体費:約40万円〜
  • 地盤調査・改良費:数十〜百数十万円
  • 申請費用・工期延長のロス

これを足すと、実質的なコストは相場と変わらないか、むしろ高くなる可能性があります。

売るときも「安くしか売れない」問題

「いざとなれば売ればいい」もなかなか通用しません。不適格擁壁のある土地は買い手がつきにくく、売れたとしても相場から工事費を引いた上に、さらにリスク分が値引きされます。

相場3,000万円(30坪)の地域で、擁壁の作り直しに1,000万円かかる土地の場合——実際の売却価格は約1,600万円(相場の約半額)になることもあるとされています。(奥建設の試算例より)


購入前にサクッと確認できるチェックリスト

時間がないときこそ、このリストだけ持って現地に行ってみてください。

👀 現地で目で見てチェック

  • 擁壁にひび割れ・膨らみがある
  • 表面が白く変色している部分がある(背面が割れているサイン)
  • 水抜き穴が詰まっている、またはそもそもない
  • コンクリートブロックが使われている
  • 二段に積み上がっている、または後から継ぎ足した感じがある

📋 書類でチェック

  • 擁壁の「検査済証」があるか(ない=不適格の可能性大)
  • 擁壁の所有者が誰か(売主?隣人?)
  • 宅地造成工事規制区域に入っていないか
  • がけ条例の適用があるか(自治体の建築指導課に確認)

🙋 専門家にお願いすること

  • 外構業者に擁壁の状態診断+将来の工事費の見積もりをもらう
  • 土地家屋調査士に境界標の位置確認を依頼する

まとめ:「高低差のある安い物件」はこう考えよう

リスク金額感
擁壁の新設工事費100万〜500万円超(高さ・幅による)
古い擁壁の解体費約40万円〜
地盤改良・残土処分など追加費用数十〜百数十万円
建て替え制限(不適格擁壁があると建築確認が下りない)スケジュール遅延+費用
売却時の価格下落相場の半額程度になることも
耐用年数(20〜50年で再工事)将来にわたって維持コストが続く

「安い!」と感じたその直感は、あながち間違いではありません。でもその安さの理由が擁壁コストの先送りだったとしたら、それは「お得な物件」ではなく「コストを未来の自分に押しつける物件」です。

高低差のある不動産が絶対ダメなわけではありません。でもリスクを数字で把握した上で、それでも納得して買うかどうかを判断してほしいのです。

不動産は、一生に何度もある買い物ではありません。「なんとかなるかな」より「ちゃんと確かめた」で進んでいきましょう。


【参考】比較ビズ「擁壁工事の費用相場」/LIFULL HOME’S PRESS「安全な擁壁の見分け方」/SUUMO「擁壁工事とは?」/SuMiKa建築家相談事例/奥建設「古い擁壁のある住宅にお住まいの方へ」/国土交通省「宅地擁壁の健全度判定・予防保全対策マニュアル(2022年4月)」


📎 参考・出典


✍️ この記事を書いた人|ほげたろう

宅建士(2014年取得)・FP1級(2019年取得)保有のフルスタックエンジニア。不動産系サービス会社に勤務しながら、飛び込み営業時代や不動産投資の失敗も含めたリアルな体験をもとに「不動産ゼロからナビ」を運営。4人家族、地方在住。「難しそう」を「なんとかなる」に変える情報を発信中。

▶ 詳しいプロフィールはこちら