「また更新で家賃の値上げ…」——いま、この手の通知を受け取る人が本当に増えています。共働きでがんばっているのに、住んでいるだけで固定費がじわじわ上がっていく。近隣相場の資料や同意書がどっさり届き、返信用のレターパックまで同封されていたら、誰だって焦りますよね。

結論から言います。普通借家契約なら、家賃の値上げは断れます。大家さんが同意なしに勝手に上げることはできません。でも——「断れる」で安心して断り続けるのは危険ですし、そもそもこの値上げ通知は、「このまま都内の賃貸でいいのか」を考え直すサインでもあります。今回は断れても、家賃の上昇圧力はこの先も続くからです。

私は宅建士(2014年取得)・FP1級(2019年取得)を持ち、今は不動産テック企業でAIを使った不動産価格の査定システムを開発しています。「家を売るとき・買うときの情報格差をなくす」がミッション。飛び込み営業時代の現場と、日々データと向き合うエンジニア目線の両方から、法律の条文と公的データを確認しながらこの記事を書きました。

読み終わるころには、「正しい断り方」と「断り続けることの本当のリスク」、そして“いっそ住み替える・買う”という選択肢の見極め方まで、自分の頭で判断できるようになります。焦って損する側から、落ち着いて構える側へ。いっしょに整理していきましょう。

先日、ネットでこんなQ&Aを見かけました(個人が特定できないよう、要点だけ書き直しています)。

❓ 相談

家賃値上げのお知らせが来ました。14年住んでいるのですが、近隣相場や最近の入居者の資料などたくさんの書類と一緒に、返信用のレターパックまで同封されていて焦っています。お断りすることはできますか?

💬 ネットでの回答

「断れるよ。普通借家契約なら大家が勝手に上げられない。14年も住んでる優良入居者にプレッシャーかけてるだけ。『値上げはお断り、今まで通りの条件で更新を』と一文送ればOK。相手の同意書にサインして返す必要はない。焦らなくて大丈夫」

この回答、前半はおおむね正しいです。でも「焦らなくて大丈夫、サインしなければOK」で終わっているのが、私は引っかかりました。それで安心しきってしまうと、あとで足をすくわれるからです。なぜそう言えるのか、順番に説明します。

そもそも、家賃の値上げって断れるの?

🤔そもそも、家賃の値上げって断れるの?
結論

普通借家契約なら、家賃の値上げは断れます。大家さんが入居者の同意なしに、一方的に家賃を上げることはできません。

理由はシンプルで、家賃の変更は本来「双方の合意」が必要だからです。あなたが「はい、上げます」と納得しない限り、勝手に金額が書き換わることはありません。更新の同意書が同封されていても、それにサインを返す法的な義務はないんです。

これは法律にもはっきり根拠があります。賃貸借のルールを定めた借地借家法(しゃくちしゃっかほう)第32条。ここに「賃料増減額請求権(ちんりょうぞうげんがくせいきゅうけん)」という権利が書かれていて、大家さんも入居者も、相手に家賃の増額・減額を「請求できる」とされています。逆に言えば、できるのはあくまで“請求”まで。請求しただけで自動的に金額が変わるわけではありません。

「請求できる」のは、こんなとき

借地借家法32条は、家賃が次のような事情で「不相当(ふそうとう=今の金額が見合わなくなった状態)」になったときに、増減を請求できると定めています。

要件かんたんに言うと
① 租税その他の負担の増減固定資産税などのコストが上がった/下がった
② 土地・建物の価格、その他の経済事情の変動不動産価格やインフレで状況が変わった
③ 近傍同種の建物の借賃と比較して不相当近所の似た物件と比べて、家賃が安すぎる/高すぎる

ポイントは③です。あなたの家賃が「周辺相場とくらべて明らかに安い」状態だと、大家さん側の言い分にも正当性が出てくるということ。14年も同じ家賃で住んでいる場合、世の中の家賃が上がっていれば、当然このギャップは大きくなります。ここは後でデータと一緒に詳しく見ます。

まとめると——断れる。同意しなければ、その時点で勝手に上がることはない。ネットの回答の前半は、ここまでは合っています。

「断れる」で終わらせると危ない、たった1つの理由

⚠️「断れる」で終わらせると危ない、たった1つの理由
ここが落とし穴

断った時点では上がらない。でも大家さんには「調停 → 訴訟」という法的ルートが残っています。話はそこで終わりません。

なぜ「断ってOK」で安心しきると危ないのか。理由は、大家さんが本気なら、裁判所に持ち込めるからです。あなたが「お断りします」と返すと、たしかにその場は動きません。でも大家さんはあきらめずに、賃料増額の調停(ちょうてい)を申し立てることができます。

しかも家賃の増額については、「調停前置主義(ちょうていぜんちしゅぎ)」というルールがあります(民事調停法24条の2)。これは「いきなり裁判はダメ。まず調停(話し合いの手続き)を経てね」という決まり。つまり大家さんは、まず簡易裁判所に調停を申し立て、それでもまとまらなければ訴訟へ——という流れで進めることになります。

調停では何が起こる?

調停は、裁判官と調停委員を交えた話し合いの場です。ただの口論ではありません。当事者の合意が難しいと、不動産鑑定士(かんていし)による「適正家賃はいくらか」の鑑定が行われることもあります。プロが客観的な数字を出してくる、ということです。

それでも合意できないと調停は不成立になりますが、裁判所が職権で「調停に代わる決定」(民事調停法17条)を出す場合があります。これに2週間以内に異議を出さないと、裁判上の和解と同じ効力を持ってしまう。ここを知らずに通知を放置すると、思わぬ形で増額が確定することもあるんです。

だから——「断る」のは正解。でも「断ったら終わり」ではない。大家さんが本気で、かつあなたの家賃が相場とかけ離れて安いなら、戦いは始まったばかり、というくらいの心構えがちょうどいいです。

断ったあと、最悪どうなる?(ここが一番こわい)

💸断ったあと、最悪どうなる?(ここが一番こわい)
結論

裁判で増額が認められると、請求された時点までさかのぼって、差額+年1割(10%)の利息を払うことになります。「断っていた期間」もタダでは済みません。

これがいちばん見落とされやすいポイントです。借地借家法32条2項には、こう書かれています。増額請求でもめている間、入居者は「自分が相当だと思う額」を払っておけばOK。ここまでは入居者にやさしい。でも、続きがあります。

あとから裁判で増額が確定し、それまで払っていた額に不足があったときは、その不足額に「年1割(10%)の利息」をつけて支払う——これがただし書きの内容です。年10%の利息って、今のご時世だとかなり重いですよね。

具体的に、いくらになる?

たとえば家賃を月2万円上げる増額請求が、もめた末に1年後の裁判で「正当」と認められたとします。あなたが「上がるはずがない」と従来額のまま払い続けていたら、こうなります。

項目金額の目安
さかのぼる差額(2万円 × 12か月)24万円
それに付く年1割の利息+ 数千円〜2万円超
合計(おおよそ)26万円前後を一括

※あくまで考え方を示す試算です。実際の額は増額幅・期間・確定時期で変わります。

「サインしなければ大丈夫」と高をくくって突っぱね続けた結果、負けたときの請求がまとめてやってくる。これがネットの回答が触れていなかった、いちばんこわい部分です。だからこそ、感情で拒否し続けるのではなく、自分の家賃が「断れる水準」なのかを冷静に見極めることが大事になります。

なぜ今、値上げの通知が増えているのか【データで確認】

📊なぜ今、値上げの通知が増えているのか【データで確認】
結論

「最近は値上げの話が多い」は気のせいではありません。公的データを見ると、値上げ通知も、それに対する相談も、はっきり増えています。

理由は、不動産価格と家賃そのものが上がっているからです。数字で確認しましょう。まず国土交通省の「不動産価格指数」。2010年を100とした指数で、マンション(区分所有)は222.2(令和7年9月分・季節調整値)。15年で2倍超です。物件価格がここまで上がれば、大家さん側が「今の家賃では割に合わない」と感じるのは自然な流れです。

家賃そのものも動いています。内閣府の試算では、東京都の募集家賃は2023年以降に上昇率が拡大し、このペースが続けば2030年1月時点で2020年の約1.3倍になる、という計算結果が示されています。じわじわ、ですが確実に上がっている。

行政が「特別窓口」を作るレベル

そして決定的なのが、行政の動きです。東京都への家賃引き上げに関する相談は、令和6年度(2024年度)に前年度比で倍増。これを受けて東京都は、2025年10月10日に「賃料値上げ特別相談窓口」を新設しました。借地借家法にもとづくアドバイスをし、必要なら弁護士の無料相談につなぐ、という公的な窓口です。役所がわざわざ専用窓口を作るくらい、相談が押し寄せている、ということ。

とくに増えているのが、オーナーチェンジ(物件の持ち主が変わること)をきっかけにした、急で過大な値上げ要求です。高い価格で物件を買った新オーナーが、利回りを確保するために家賃を上げたがる——という構図ですね。

ただし、ここが冷静な見極めポイント

値上げが「増えている」のと、値上げが「裁判で認められる」のは別の話です。実質賃金(物価を加味した手取り感覚の賃金)はマイナスの月が続いていて、「払えない」という入居者側の声も同じく増えています。相場と大きくかけ離れた過大な値上げ要求は、調停・裁判でも通りにくい。逆に、あなたの家賃が相場よりはっきり安いなら、増額が認められる現実的な可能性がある——ということです。

つまり「断っていい値上げ」と「覚悟して向き合うべき値上げ」がある。その線引きを、自分の物件の相場で確認することが何より大事になります。

入居者がやるべき5つのこと【チェックリスト】

入居者がやるべき5つのこと【チェックリスト】

では、値上げ通知が来たら何をすればいいのか。焦って即サインも、感情で全拒否も、どちらも危険です。順番にやることはこれだけです。

  • 1 まず契約書を確認する(普通借家か、定期借家か) 今の契約が「普通借家契約」なら、ここまで説明したとおり同意なしに上げられません。一方「定期借家契約」だと、契約期間の満了で更新がない=再契約時に条件が変わりうるので、対応がまったく違います。さらに「一定期間は増額しない」という特約があれば、その間は増額請求自体ができません。最初にここを必ず見ます。
  • 2 周辺相場を自分で調べる(一番大事) 同じ駅・同じ広さ・似た築年数の物件が、今いくらで募集されているか。賃貸ポータルで5件も見れば肌感がつかめます。自分の家賃が相場よりはっきり安いなら、大家さんの言い分に正当性がある=強気に全拒否すると後でリスク。逆に相場どおり、あるいは相場より高いなら、堂々と断っていい水準です。
  • 3 感情で拒否せず、「根拠」を持って意思表示する 「絶対に払わない」ではなく、「現行の条件での更新を希望します。値上げの根拠となる資料があれば拝見したいです」と、冷静に・書面(またはメール)で返すのが基本。やりとりはすべて記録に残します。後で調停・裁判になったとき、この記録があなたを守ります。
  • 4 同意書には、その場でサインしない 同封された同意書に署名・押印して返すと、合意が成立してしまいます。返信用レターパックは「早く同意して」という無言の圧。急かされても、内容を理解しないままサインしないこと。返す義務はありません。
  • 5 相場との差が大きい・話がこじれたら、専門家に相談する 相場よりかなり安く、大家さんが本気で調停をちらつかせてきたら、独力での全拒否は危険です。東京都なら「賃料値上げ特別相談窓口」のような公的窓口があり、相談は無料。自治体の無料法律相談や弁護士相談も活用しましょう。「断り方」より「落としどころの見極め」が要る局面です。

この5つを踏めば、「焦って損する」「強気に出すぎて後で利息込みで請求される」の両方を避けられます。断るかどうかの前に、まず“自分の家賃が相場とどれだけズレているか”を知る。これが全ての出発点です。

値上げ通知は「住まいを見直すサイン」かもしれない

🏠値上げ通知は「住まいを見直すサイン」かもしれない

少し視点を変えます。値上げ通知が来たということは、あなたの住んでいるエリアの家賃が、すでに上がりはじめているサインでもあります。今回は断れたとしても、次の更新、その次の更新と、家賃の上昇圧力はこの先も続きます。前の章で見たとおり、家賃も物件価格も右肩上がりだからです。

とくに都内で賃貸を続けている子育て世帯にとって、家賃の値上げは「見えない固定費の増加」です。お子さんが大きくなれば部屋も手狭になる。そのタイミングで「いっそ買ってしまおうか」「家賃の上がらない郊外に移ろうか」と考える人が、実際に増えています。値上げ通知は、その住まいの戦略を一度立ち止まって考える、いいきっかけになります。

移住を選択肢に入れるなら、家賃だけでなく住みやすさや治安も含めて比べたいところ。たとえば千葉の主要エリア vs 東京23区 犯罪件数ランキングでは、移住先の安全面を実データで比較しています。エリア選びの参考にしてみてください。

「買う」を本気で考えるなら、ローンの借り先から

もし値上げを機に購入を検討するなら、物件と同じくらい大事なのが住宅ローンの借り先です。物件はあれこれ時間をかけて選ぶのに、ローンは「なんとなく」で決めてしまう人が意外と多い。でも、どの銀行で借りるかが変わるだけで、総返済額が数百万円単位で変わることもあります。家賃の値上げに身構えるなら、ローンの組み方にも同じくらい目を向けたいところです。

「モゲチェック」は、入力5分・完全無料で、ネット銀行から地方銀行まで主要な金融機関の条件をまとめて比較できるサービスです。住宅ローンのプロにメッセージで相談もできます。

申し込みではなく、まずは「自分はどの銀行から、どんな条件で借りられそうか」を見てみるだけでもOK。ただし、年収や働き方によっては条件のいい提案が出ないこともあるので、過度な期待はせず“まず診てみる”くらいの気持ちでどうぞ。

まとめ:断れる。でも「断れる」で終わらせない

🧭まとめ:断れる。でも「断れる」で終わらせない

最後に要点を整理します。

ポイント結論
断れる?普通借家契約なら断れる。同意しなければその時点では上がらない
それで終わり?終わらない。大家には「請求 → 調停 → 訴訟」のルートがある(調停前置主義)
負けたら?さかのぼった差額+年1割(10%)の利息を一括で払うことになりうる
判断の軸は?自分の家賃が「周辺相場とどれだけズレているか」。安すぎるなら覚悟が要る
まずやること契約書確認 → 相場調査 → 根拠を持って意思表示 → 即サインしない → 必要なら無料相談

ネットの「断れるよ、焦らなくて大丈夫」は、間違いではありません。でも「相場とかけ離れて安い物件を、覚悟なしに突っぱね続ける」のは危険。これがこの記事で一番伝えたかったことです。断る権利はある。その上で、自分の家賃の立ち位置を知って、落ち着いて構える。それができれば、家賃の値上げはもう怖くありません。

そして突き詰めると、これは賃貸だけの話ではありません。家を「買う」ときは、もっとシビアです。

ここまで読んでもらえれば分かるとおり、家賃の値上げを断れるかどうかも、結局は「知っているかどうか」で結果が変わります。相場を知らずに突っぱねれば損をし、知っていれば落ち着いて構えられる。情報の差が、そのままお金の差になるんです。

これは家を買うときも同じ——いえ、もっと深刻です。自宅の購入は、れっきとした不動産投資。相場より高くつかんでしまえば、その後どれだけ家賃や管理を頑張っても取り返せません。買う前の知識ひとつで、数百万円、ときに一千万円単位の差が生まれます。私自身、20年以上前にこのスクールで学んだことが、その後の取引で大きな失敗を避ける土台になりました。

気になる方は、まず無料体験から。無理な勧誘は一切なく、話を聞くだけでも十分です。不動産そのものは気軽に買うものではありませんが、この体験受講のほうは、どうか気軽に受けてみてください。

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⚠️ 注意事項(免責事項)

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的アドバイスではありません。賃料増額請求への対応は、契約内容・物件の状況・周辺相場・地域差によって結論が変わります。実際にトラブルとなった場合は、弁護士や自治体の無料相談窓口など、専門家へご相談ください。法令・データは執筆時点のものです。

✍️ この記事を書いた人|ほげたろう

宅建士(2014年取得)・FP1級(2019年取得)保有。今は不動産テック企業でAIを使った不動産価格の査定システムを開発。「家を売るとき・買うときの情報格差をなくす」がミッション。飛び込み営業時代や不動産投資の失敗も含めたリアルな体験と、日々データと格闘するエンジニア目線の両方から「不動産ゼロからナビ」を運営。4人家族、地方在住。「難しそう」を「なんとかなる」に変える情報を発信中。

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