「こんなはずじゃなかった」を防ぐ——地中埋設物トラブルのリアルと契約不適合責任の話
「土地を買ったら地中に廃材が…」そんなトラブルは実は珍しくありません。宅建士が契約不適合責任のリアルと、買主が知っておくべき対策をわかりやすく解説します。
「安い土地を見つけた!」「相場より格安で出てる!」……そう思ったとき、ちょっと待ってください。
不動産には、目では見えないリスクが潜んでいることがあります。 特に怖いのが「地中の埋設物(まいせつぶつ)」。地面の下に、使われなくなったコンクリートの杭や産業廃棄物、古い浄化槽が埋まったままになっているケースが、思っている以上に多いんです。
今回は、私が不動産業者時代に実際に体験した「松戸の土地で1,000万円が飛んだ」トラブルを赤裸々にお話しします。 一生で数千万円単位のお買い物をするときに、同じ目に遭ってほしくないので、包み隠さず書きます。
📌 この記事でわかること
- 不動産の地中に埋まっているもので起きるトラブルの実例
- 「瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)」「契約不適合責任」とは何か、わかりやすく解説
- 地中埋設物が発覚したとき、売主・買主どちらが費用を負担するのか
- 土地・中古物件を買うとき・売るときに必ずやっておくべき確認事項
これがリアルな話です。松戸の土地で1,000万円が消えた日
私が不動産業者で働き始めて最初に担当した土地の仕入れ案件でした。場所は千葉県松戸市。
坪単価 26万円——当時の周辺相場は坪50〜60万円でしたから、「破格」の一言。
土地面積は約100坪。上には古い重量鉄骨(じゅうりょうてっこつ)造の建物が建っていましたが、解体費用を払っても全然採算が合う。8世帯のアパートを建てる計画で、仕入れを決めました。
ところが——。
建物を解体して、いざアパートの基礎工事に入ろうとしたとき、 地面の中からRC製(鉄筋コンクリート製)の杭が大量に出てきたんです。
事前の説明は一切なし。売主・仲介業者ともに「知りませんでした」の一点張り。 「重量鉄骨の建物だったんだから杭があることくらい容易に想像できる」と逃げられてしまい、撤去費用はこちら持ちになりました。
最終的にかかった費用はこうなりました。
| 項目 | 金額(概算) | 備考 |
|---|---|---|
| 土地の仕入れ価格 | 約2,600万円 | 坪26万円×100坪 |
| 重量鉄骨造建物の解体費用 | 約600万円 | 建物撤去・廃材処理含む |
| 地中のRC杭撤去・浄化槽撤去 | 約1,000万円 | 浄化槽は事前説明あり(想定内)。杭撤去が大部分 |
| 8世帯木造アパート建築費 | 約5,600万円 | 2015年当時・比較的建築費が低い時期 |
| 合計(商品総額) | 約1億円 | — |
幸い、松戸は家賃もある程度取れるエリアだったため、最終的にアパートとして売ることはできました。 でも、杭の撤去が予算外で1,000万円飛んだ瞬間の恐怖は、今でも忘れられません。 生きた心地がしなかったとはまさにこのこと…。
「杭が出てきたのに、なんで売主の責任じゃないの?」——法律の落とし穴を知っておく
「それって売主が悪いんじゃないの? 請求できないの?」と思いますよね。 ここを理解しておかないと、実際に困ったときに対処できません。
⚖️「瑕疵担保責任」と「契約不適合責任」って何?
かつての民法では、売主は買主が知らなかった「隠れた欠陥(=瑕疵〔かし〕)」について瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)を負う、とされていました。
ただし、2020年4月1日の民法改正によって、この言い方は「契約不適合責任(けいやくふてきごうせきにん)」に変わっています。わかりやすく言うと、「売ったものが契約内容通りじゃなかったら売主が責任を取る」というルールです。買主の権利がより広くなった改正でした。
地中の埋設物も、これらの責任の対象になり得ます。ただし、「すべての地中埋設物が自動的に売主の責任になる」わけではないのが、ポイントです。
「杭は容易に想像できる」論理——これが問題だった
私のケースで売主側が主張したのは、「重量鉄骨の建物があったんだから、基礎杭があることは想像できるはず。買主側がちゃんと確認すべきだった」というものでした。
実は、これには法的にも議論があります。裁判例を調べると、「地中埋設物が瑕疵(欠陥)になるかどうかは、その量や質が建物建築に特別な支障をきたすレベルかどうかで判断する」というのが現在の考え方です(大阪高裁 平成25年7月12日判決等)。
つまり「少量でちょっとある程度」なら問題なし、でも「大量に埋まっていて、通常の想定を超える除去工事が必要なレベル」なら瑕疵(欠陥)と認められやすくなります。
私の体験談では、1,000万円規模の撤去費用が必要だったわけですから、現在の法律(契約不適合責任)下であれば、また違う展開になっていた可能性もあります。ただ、当時(2015年頃)の旧民法のもとでは泣き寝入りになりました。
⚠️ 知っておきたい!地中埋設物トラブルの重要ポイント
- 「瑕疵担保責任」は2020年に廃止。現在は「契約不適合責任」として、売主の責任範囲がより広くなっている。
- 地中埋設物があっても、すべてが売主責任になるわけではない。「建物建築に特別な支障をきたすレベル」かどうかが判断基準になる。
- 「知らなかった」では済まないケースも。売主が建物の構造から埋設物の存在を把握できた(或いは知っていた)と判断されれば、損害賠償が認められた判例もある。
- 契約書に特約を入れても、故意に隠した場合は無効。「一切責任を負わない」と書いてあっても、悪意があれば免責されない。
- 買主は「知った時から1年以内」に売主へ通知が必要(民法566条)。気づいても放置していると請求できなくなる。
「安い物件」には理由がある——価格と埋設物リスクの関係
私がこのトラブルから学んだ、最大の教訓はこれです。
「安いには理由がある。でも、なぜ安いかを事前にきちんと把握できれば、リスクは回避できる。」
考えてみてください。松戸の件でいえば、仕入れ値が坪26万円(相場の約半額)でした。もし事前に「杭の撤去に1,000万円かかる」と分かっていれば、それを織り込んで価格交渉もできたし、場合によっては購入を見送ることもできたわけです。
問題は「想定外」で飛び出てきたことで、その想定外を防ぐための事前調査が不十分だったことでした。
地中埋設物が出やすい土地の特徴
以前に大きな建物があった土地
マンション・ビル・工場などの跡地は、RC造の基礎杭が残っている可能性が高い。重量鉄骨造も要注意。
ガソリンスタンド・クリーニング店跡地
地下タンクや土壌汚染のリスクあり。裁判例でも売主の責任が認められたケースが複数ある。
築年数が古い物件・旧家屋跡地
古い浄化槽(じょうかそう)や井戸が埋まったままになっているケースが多い。
登記簿上の地歴が複雑な土地
何度も地目変更や所有者変更がされている土地は、過去の利用履歴を把握しにくい。
「こんなはずじゃなかった…」を防ぐ!買う前・売る前のチェックリスト
🏠 土地・中古物件を「買う」前に確認すること
✅ 買う前チェックリスト
- 土地の履歴(登記簿謄本・公図)を確認する —— 過去に何が建っていたか調べる。登記簿は法務局やオンラインで取得可能。
- 旧建物の図面・設計図書を売主に開示してもらう —— 基礎の種類(ベタ基礎・杭基礎など)を確認。杭基礎が使われていれば埋設リスク大。
- 建物の構造(木造・RC造・鉄骨造)を必ず確認する —— RC造や重量鉄骨造が建っていた跡地は、地中杭の残存リスクが高い。
- 「地中埋設物の有無」を売主に書面で確認・回答させる —— 口頭ではなく、重要事項説明書や特約に明記させること。
- 可能なら「地中レーダー探査」を依頼する —— 電磁波で地中の埋設物を事前に探知できる。費用は数万〜十数万円程度だが、大きなトラブルを防ぐ保険になる。
- 「地中埋設物が発覚した場合の費用負担」を契約書に明記させる —— 特約として「撤去費用は売主負担」と入れておくと安心。
- 相場より大幅に安い土地・物件は「なぜ安いか」を徹底調査する —— 安さの理由が説明できないなら、埋設物・土壌汚染・権利関係などのリスクが潜んでいる可能性を疑う。
🏠 マンション・土地を「売る」前に注意すること
✅ 売る前チェックリスト
- 過去に大きな建物があった場合、基礎杭の撤去が完了しているか確認する —— 「解体済み」でも地中に杭が残っているケースが多い。解体業者の工事記録を確認しよう。
- 浄化槽・井戸・古い配管の有無を事前に確認・開示する —— 知っていて黙っていると「故意の不告知」として責任を問われる可能性が高くなる。
- 地中埋設物の存在を知っている場合は、必ず重要事項説明書に明記する —— きちんと開示すれば、買主との合意のもとで価格調整ができる。
- 売却後に埋設物が発覚した場合の責任について、弁護士・宅建士に相談しておく —— 契約不適合責任の免責特約は入れておく価値があるが、故意隠蔽の場合は無効。
- 不安があるなら、売却前に地中調査を行う —— 事前にクリアにしておくほうが、売却後のトラブルリスクをゼロにできる。
「安く買えれば、多少の想定外もカバーできる」——これが本当の意味
私がこの件から得た二つの学びを、最後にお伝えします。
ひとつ目は「想定漏れがないか、情報収集と知識武装を徹底する」こと。 どんなに経験豊富な人でも、事前の調査を怠れば同じ失敗をします。私の当時の上司たちも例外ではありませんでした。
ふたつ目は「可能な限り安く買うこと」。 これは「安ければいい」という意味ではありません。適正な価格より安く仕入れられれば、想定外の出費が出ても、その分でカバーできる「余白」ができるということです。松戸のケースも、仕入れ値が相場と同等の坪55万円だったとしたら、1,000万円の追加費用で完全に赤字になっていました。
不動産の世界では「安く買えた物件はトラブルを許容できる」というのは、投資の鉄則でもあります。住宅購入でも同じで、相場より少し安く買えた物件は、リフォームや設備交換などの想定外コストに対して「余白」ができます。
まとめ:不動産を買うとき・売るときの「地中リスク」3つのポイント
📌 この記事のまとめ
- 地中に眠る埋設物(杭・廃材・浄化槽など)は、1,000万円単位のコストになり得る。 特に重量鉄骨・RC造の建物跡地は要注意。
- 現行の「契約不適合責任」では、売主は地中埋設物について責任を負う可能性がある。 ただし「量・質が建物建築に特別な支障をきたすレベル」かどうかが判断基準になる。売買契約書への明記と事前開示が双方のリスク回避につながる。
- 「安い物件」を買うときは、その安さの理由を必ず掘り下げる。 土地の履歴確認・旧建物の図面確認・地中レーダー探査などを活用して、事前に見えないリスクをできるだけ「見える化」することが大切。
もし「千葉への移住を検討中」「都内のマンションを売って千葉に引っ越したい」とお考えなら、売却前のリスク確認も含めてぜひ参考にしていただけると嬉しいです。 不動産の購入・売却で「こんなはずじゃなかった…」という後悔をしないために、知識を持っておくことが何より大切な守りになります。
📎 参考・出典
✍️ この記事を書いた人|ほげたろう
宅建士(2014年取得)・FP1級(2019年取得)保有のフルスタックエンジニア。不動産系サービス会社に勤務しながら、飛び込み営業時代や不動産投資の失敗も含めたリアルな体験をもとに「不動産ゼロからナビ」を運営。4人家族、地方在住。「難しそう」を「なんとかなる」に変える情報を発信中。