「せっかくなら少しでも高く売りたい」――これは不動産を手放すとき、誰もが抱く自然な気持ちです。

しかし現実には、売却前のたった一つの判断ミスで、数百万円単位の損をしてしまう人がいます。その判断ミスとは何か。どうすれば防げるのか。この記事では、元不動産会社勤務・自身でも14件購入・12件売却の経験を持つ筆者が、「損しない売却」のために最初に知っておくべきことを、できるだけ平易に解説します。

売却を検討しているマンション、戸建て、相続で手に入った土地、使わなくなった不動産――何であれ、まずこの記事を読んでから動いてください。特に「空室だから賃貸に出しておこう」と考えている方は要注意です。それが、売却価格を大きく下げる引き金になることがあります。


まず知っておきたい:あなたの不動産は今「高く売れる」かもしれない

話を進める前に、現在の不動産市場について把握しておきましょう。「不動産価格が上がっている」という話を耳にしたことがある方も多いと思いますが、実際のデータはどうなっているでしょうか。

マンション価格:10年で約2倍という驚異の上昇

国土交通省が公表している不動産価格指数(2010年平均=100)によると、マンション(区分所有)の指数は2025年時点で200を大きく超えており、この10年間でおおむね2倍以上に達している地域もあります。首都圏の中古マンション成約価格は、2024年度に平均4,890万円を記録し、12年連続で前年を上回りました。㎡単価で見ると、2003年の約30.75万円から2024年には約76.88万円と、20年で2.5倍以上になっています。

特に東京23区では、新築マンションの平均価格が1億3,000万円を超える水準が続いており、バブル期をはるかに上回る価格帯となっています。この高騰が中古市場にも波及し、都内の中古マンション在庫は品薄状態が続いています。

土地・戸建て価格も上昇トレンド

土地(住宅地)については、首都圏で2015年ごろから上昇が続いており、2024年度の成約価格は平均3,794万円と前年度比7.5%の上昇を記録しました。戸建て(中古)も同様で、2024年度の首都圏成約価格は平均3,948万円と4年連続の上昇となっています。

マンションほどの急騰ではないものの、戸建て・土地ともに上昇基調は明確です。2020年以降、在宅ワークの普及により郊外の戸建て需要が高まったことも、価格押し上げの一因となっています。

なぜこれほど上がっているのか

背景には複数の要因が重なっています。長期にわたる低金利政策により住宅ローンを組みやすい環境が続いたこと、円安によって海外マネーが日本の不動産市場に流入したこと、資材費・人件費の高騰で新築コストが上がり中古価格も下支えされていること、そして都市部での再開発や人口集中が需要を下支えしていること――これらが複合的に絡み合い、記録的な価格水準が続いています。

つまり、今あなたが持っている不動産は、5年前・10年前に比べて大幅に高く売れる可能性があります。その可能性を最大化するために、次に説明することをしっかり押さえてください。


「空室だから賃貸に出す」は大きな間違い

さて、本記事で最も伝えたいことです。

使っていない不動産がある。空室のまま置いておくのは勿体ない気がする。だったら賃貸に出しておこう――この発想、気持ちはわかります。でも、売却を視野に入れているなら、これは絶対に避けるべき行動です。

空室物件と賃貸中物件では「市場が全然違う」

不動産の買い手は大きく二種類に分かれます。

一つ目は「自分で住むために買う人(実需)」。これが圧倒的多数派です。マイホームを探している人、子どもの学区を変えたい人、老後の住まいを探している人――こういった方々は「空室状態」の物件を探しています。購入後すぐに住めるからです。そして、住宅ローン(フラット35や民間銀行の住宅ローン)を使って購入するため、比較的融資が付きやすく、購入できる人の母数がとても多い。

二つ目は「収益を得るために買う人(投資家・収益物件投資家)」。この層が賃貸中の物件を買います。すでに入居者がいる状態で購入するため、住むためではなく家賃収入目的です。使うローンは収益物件向けのもので、住宅ローンより審査が厳しく、自己資金割合も高く求められます。当然、購入できる人の絶対数が少ない。

さらに決定的な違いがあります。住宅ローンの審査は「購入者の年収・信用力」が主な基準ですが、収益物件ローンは「物件の収益性」も厳しく審査されます。利回りが出ない、空室が多い、管理状態が悪いといった物件はローンが通りにくく、現金購入できる投資家しか買い手になりません。その結果、価格交渉で強く値切られることになります。

査定の方法も変わってしまう

空室状態の物件には「取引事例比較法」が使われます。周辺の類似物件の成約事例と比較して価格を決める手法で、現在の市場水準が素直に価格に反映されます。前述の通り今は上昇相場ですから、高い数字が出やすい。

一方、賃貸中の物件は「収益還元法」で査定されます。家賃収入を基に「この物件はいくら稼げるか?」という視点で価格が計算されます。つまり、現在の市場相場よりも「家賃から逆算した価値」が価格の上限になってしまいます。

例えばこういうことです。同じマンションの一室が、空室なら3,000万円で売れるところ、賃貸中(月8万円)だと収益還元で計算すると2,000〜2,200万円にしかならない、ということが起こりえます。実に800〜1,000万円もの差です。

「ちょっとの間だけ賃貸に出しておこう」という判断が、最終的に何百万円もの損失につながることがある。これが「売却予定なのに賃貸に出してはいけない」理由です。


3つの査定手法を知ることで、騙されなくなる

不動産の査定には主に3つの手法があります。それぞれの仕組みを知っておくと、不動産会社の査定書を見たときに「この価格の根拠は何か」を自分で判断できるようになります。

① 取引事例比較法――マンション・土地で最もよく使われる

近隣の類似物件の成約事例を複数集め、それと対象物件を比較して価格を算出する方法です。「同じマンション、似た広さ、同じ築年数の部屋が先月3,200万円で売れた。あなたの部屋は階数が高いので+100万円で3,300万円」というイメージです。

実際の取引データに基づいているため客観性が高く、市場価格を反映しやすい手法です。ただし、周辺に比較できる事例が少ない物件(希少性の高い一棟マンション、山間部の土地など)では精度が落ちます。

査定例:東京都内の中古マンション(70㎡、築15年)。同マンション内の類似成約事例が㎡単価95万円。70㎡×95万円=6,650万円をベースに、階数・方位・リフォーム状況などを加味して査定価格6,500〜6,800万円を算出するイメージです。

② 収益還元法――収益物件・投資用不動産で使われる

不動産が将来生み出す収益(家賃)をもとに価格を算出する手法です。計算式はシンプルで、「年間純収益 ÷ 還元利回り = 物件価格」となります。

査定例:月10万円の家賃が入るマンション。年間家賃収入120万円から管理費・修繕費・税金等の経費20万円を引いた純収益は100万円。エリアの還元利回りを5%と設定すると、100万円÷5%=2,000万円が収益価格になります。

ここで重要なのは、還元利回りの水準です。都心の好立地物件なら3〜4%台で計算されますが、地方・築古・管理が悪い物件は8〜10%以上で計算されることもあります。利回りが高くなれば計算上の価格は下がります。たとえば同じ100万円の純収益でも、還元利回りが5%なら2,000万円ですが、8%では1,250万円にしかなりません。

賃貸中の物件で収益還元法を使われると、今の上昇相場が反映されにくく、実需向け価格より安くなるのがこういう理由です。

③ 原価法――戸建て住宅で使われる

土地価格と建物の再調達価格(同じ建物を今新たに建てた場合の費用)を合計し、そこから経年劣化による減価分を差し引いて価格を求める手法です。中古戸建て住宅の建物部分を査定する際によく用いられます。

査定例:木造戸建て(延床100㎡)の建物部分。再調達単価を18万円/㎡とすると再調達原価は1,800万円。築20年・耐用年数22年として残存価値を計算すると、1,800万円×(1−20/22)≒約160万円(残存価値10%程度が実務的な目安)。これに土地の取引事例比較法による価格を加えて査定価格を算出します。

戸建ては「土地の価値」が大きく左右するため、原価法単体で完結するケースは少なく、土地部分には取引事例比較法を組み合わせるのが一般的です。また、リフォームの内容によっては建物評価が上積みされることもあります。


「高く売れる」条件を整理しよう

空室であることのほかにも、高く売れる条件があります。売却前に自分の物件を客観的に評価してみましょう。

立地・交通アクセス

駅徒歩10分以内であれば実需層への訴求力が高まります。複数路線利用可能、急行・特急停車駅、都心への所要時間が短いといった条件はプラス評価です。

日当たり・眺望

南向き・角部屋・高層階・前面が開けている――これらは写真映えもよく、内覧時の第一印象が良くなります。査定でも評価されますが、それ以上に「買いたい」と思わせる感情的な訴求力があります。

管理状態(マンションの場合)

修繕積立金が十分に積み立てられているか、大規模修繕の履歴はどうか、管理組合がきちんと機能しているか。これらは買い手の長期保有意欲に直結します。管理が悪いマンションは、同じ立地・広さでも安くしか売れません。

室内の状態・リフォーム歴

内覧時の第一印象は非常に重要です。キッチン・浴室・トイレなどの水回りが新しければプラス評価。フローリングの傷や壁紙の汚れは清潔感を損ないます。大規模なリフォームでなくても、クリーニングや部分修繕で印象が大きく変わります。

学区・周辺環境

特にファミリー向け物件では学区が価格に直結します。評判の良い小学校区、公園・スーパー・病院の近さなども、価格形成に影響する要素です。

タイミング

不動産の成約は3〜4月(引っ越しシーズン前)に集中する傾向があります。売り出しを1〜2月に始めると、最も買い手が集まる時期に内覧を実施できます。逆に8月は動きが鈍くなりやすい時期です。


査定・売却依頼で失敗しないために

物件のポテンシャルをしっかり価格に反映させるには、査定の取り方と仲介業者の選び方が重要です。以下のポイントを押さえましょう。

査定は「価格」より「根拠」を見る

3〜5社から査定を取ることで、適正価格のレンジが見えてきます。重要なのは、高い査定額を出した会社が「なぜその価格なのか」をロジカルに説明できるかどうかです。根拠なく高い査定は、後から「実際にはこの価格では売れない」として値下げを迫られるパターンが多い(いわゆる「高値つり上げ」)。査定書の中の事例物件があなたの物件と本当に似ているか、チェックしてみてください。

担当者の質が結果を左右する

不動産会社の規模よりも、担当者個人の動きが売却成否に大きく影響します。レスポンスが早い、デメリットも正直に言う、販売戦略を具体的に説明できる、価格調整の判断根拠を明示できる――こういった担当者に当たることが重要です。

媒介契約の種類を理解する

一般媒介(複数社に依頼可)と専任媒介(1社に絞る)では、それぞれ一長一短があります。最初から1社に決め打ちするより、まず一般媒介で複数社の動きを見てから判断するのが安全です。

仲介業者の選び方についてはこちらの記事も参考にしてください。相場の掴み方から媒介の選び方まで詳しく解説しています。

【初めてのマンション売却】買い叩かれないために最初にやること。相場の掴み方〜媒介の選び方まで手順書


まとめ:売却で損しないための3つの鉄則

最後に、この記事で伝えたかったことを3点にまとめます。

① 売却予定なら「賃貸に出す」は絶対NG
空室物件と賃貸中物件では、査定方法も買い手の市場も根本的に異なります。賃貸に出した瞬間、住宅ローン利用者という最大の買い手層を失い、価格が何百万円も下がる可能性があります。

② 今は「売り時」である可能性が高い
マンションは10年で約2倍、戸建て・土地も上昇基調が続いています。金利上昇の動きも出てきており、買い手のローン金利が上がれば需要が落ち、価格が下がりやすくなります。「もう少し待とう」という判断が機会損失につながる可能性があります。

③ 査定手法を知ることで「適正価格」が判断できる
取引事例比較法・収益還元法・原価法の3つを理解していれば、不動産会社の査定書が「なぜその価格なのか」を自分で評価できるようになります。根拠を見る目を持つことが、買い叩かれないための最大の防御です。


「売ろうか、どうしようか」と迷っている段階でも、査定だけ取ってみるのは何も損しません。査定は無料ですし、依頼しても必ず売らなければならないわけではありません。まず「今いくらで売れるか」を知ることが、あらゆる判断の出発点になります。

この記事があなたの売却判断の一助になれば幸いです。


📎 参考・出典


✍️ この記事を書いた人|ほげたろう

宅建士(2014年取得)・FP1級(2019年取得)保有のフルスタックエンジニア。不動産系サービス会社に勤務しながら、飛び込み営業時代や不動産投資の失敗も含めたリアルな体験をもとに「不動産ゼロからナビ」を運営。4人家族、地方在住。「難しそう」を「なんとかなる」に変える情報を発信中。

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