「更新のたびに家賃が上がって、もう限界かも…」

共働きでがんばっているのに、毎月の家賃がじわじわ上がっていく。そんな不安を抱えている方、最近めちゃくちゃ増えています。

実はこれ、データでも裏付けられています。東京都への家賃値上げ相談は2024年度に前年の約2倍に急増(東京都調べ)。首都圏ファミリー向け賃料は2024年1〜3月だけで前年比17%上昇(LIFULL HOME’S調べ)という、異常な局面に差し掛かっています。

そんな中、ネットで「家賃値上げは断ればOK」という情報を見て、ちょっと安心した方も多いはず。でも、それだけでは正確ではありません

私は宅建士(2014年取得)・FP1級(2019年取得)を保有する不動産エンジニアで、現在も一都三県で賃貸物件を保有する現役大家です。実際に入居者への家賃値上げ交渉を経験し、調停まで想定した動きをしたことがあります。

この記事では、その実体験をもとに「断ればOK」の本当のところ、調停の現実、そして入居者がとるべき具体的な行動をお伝えします。感情論ではなく、実務目線で。

読み終わるころには、家賃値上げの通知を受け取っても「冷静に対処できる」そんな状態になっているはずです。

「断ればOK」は本当?家賃値上げの法的な仕組みをまず理解しよう

結論から言います。「断れば家賃は上がらない」は半分正解で、半分はリスクを見落としています。

その理由を法的な仕組みから説明しますね。

借地借家法32条:賃料増額は「合意」が原則

まず大前提として、貸主(大家)が一方的に家賃を上げることはできません。借地借家法(しゃくちしゃっかほう)第32条という法律で、賃料の増額には一定の条件と手続きが定められています。

貸主から「来月から2万円上げます」と通知が来ても、あなたが同意しない限り、家賃は自動的には上がりません。ここまでは、ネットに書いてある通りです。

でも「合意できなければ調停へ進める」のがポイント

問題はここから。合意が取れなければ、貸主は家庭裁判所に「賃料増額請求調停(ちょうてい)」を申し立てることができます。

「調停=裁判=何十万円もかかる怖いもの」と思っていませんか?実はそうじゃないんです。後ほど詳しく解説しますが、調停の申立費用は1万円前後と、大家側にとって現実的にやりやすい手段なんです。

つまり、「断ればOK」は正しいのですが、断った後のことまで見据えておかないといけない、ということです。

借地借家法で守られている入居者の権利もある

一方で、入居者にとって強力な保護もあります。

✅ 入居者が知っておくべき権利

  • 貸主は家賃値上げを一方的に決定できない
  • 合意なき場合、貸主が調停・訴訟を申し立てる必要がある(手間・費用あり)
  • 調停・裁判でもいきなり大幅増額は認められない(段階的妥当性が基本)
  • 裁判所の判決は将来に向けた効力のみ(さかのぼって請求はできない)
  • 値上げ拒否を理由に、貸主が立退きを強制するのは法的にとても難しい

この権利を知っているだけで、気持ちが全然違いますよね。「断ればOK」は正しい。ただし、その先の展開まで理解した上で動くことが大切です。

なぜ今、家賃値上げが急増しているのか?背景を知れば冷静になれる

「なんで急にこんなに値上げしてくるの?」と思っている方も多いはず。実は、大家側にもれっきとした事情があります。知ることで、感情的にならずに交渉できるようになります。

ファミリー向け賃料は1年で3万円超も上昇している

まず数字を見てください。

エリア・タイプ 前年比上昇率 金額ベース上昇幅
東京23区 ファミリー向け +17.0% 約+3.2万円
東京23区 シングル向け +8.0% 初の10万円超
首都圏 カップル向け(3月) +7.7% 約+7,544円
首都圏 大型ファミリー向け +5.3% 約+13,413円

出典:アットホーム株式会社「マンション平均募集家賃」(2025年3月)、LIFULL HOME’Sマーケットレポート(2024年)

これは「新しく入居する人向けの募集家賃」のデータです。今の入居者への値上げ幅はもう少し小さいことが多いのですが、周辺相場がこれだけ上がっていると、大家側が「うちも上げたい」と思うのは当然の流れです。

家賃が上がっている3つの理由

① 分譲マンションが高すぎて買えない人が賃貸に殺到

2025年3月の首都圏新築分譲マンション平均価格は約1億485万円(東京23区は約1億4,939万円)。購入を諦めて賃貸に留まる人が増え、需要が急増しています。

② 建築費・人件費の高騰で新築賃貸の供給が追いつかない

建築費は過去数年で3割以上上昇とも言われています。新しい賃貸住宅が増えないのに、住みたい人は増える。需給がタイトになれば、家賃は上がります。

③ 地価上昇が続いている

土地の値段が上がると、投資家が購入した物件の利回りを保つために家賃を上げる動きが出てきます。特に首都圏郊外でこの動きが顕著です。

つまり、大家が悪いというより、市場全体の構造的な変化が起きています。感情的に「許せない!」となるより、この現実を冷静に見た上で交渉することが重要です。

【大家の実体験】実際の値上げ交渉〜調停想定の一部始終

ここからが本題です。私が実際に行った家賃値上げ交渉の流れを、大家目線でリアルにお伝えします。

物件と相場のギャップ:35%の乖離

対象物件の概要はこんな感じです。

🏠 物件概要

  • 一都三県内・都心まで約1時間
  • JR沿線 最寄り駅徒歩約10分
  • 100㎡超の戸建て物件
  • 契約賃料:13万円
  • 周辺相場(鑑定調査):約18万円

知り合いの不動産鑑定事務所に依頼した結果、㎡単価ベースで約35%の乖離があることが判明しました。さらに駅周辺賃料は約15%上昇、地価も約16%上昇というデータも揃っていました。

大家視点から言うと、「増額を要求する材料は十分にある」状態でした。

交渉の実際の流れ

交渉はこんな流れで進みました。

1

私(大家)→ 16万円を提示 相場18万に対して、まず段階的な増額として16万を提示

2

入居者 → 完全拒否 「一切応じない」という回答

3

私(大家)→ 相場調査資料を提出 鑑定資料・地価データ・周辺成約事例を提示

4

入居者 → 13.5万円なら可 少し現実的になった

5

私(大家)→ 拒否 13.5万では合意できないと伝える

最終合意 → 14.5万円 入居者側から再提案。双方合意で決着

「調停になったらどうなる?」を想定してみた

この交渉で私が不動産鑑定士に確認した「調停になった場合の想定額」が興味深かったので共有します。

鑑定士の見解は「妥当水準は約14.1万円」でした。

計算式は、現行賃料13万円 × 約108.6%(経済指標上昇分を考慮)≒ 14.1万円。相場が18万円だからといって18万円に一気に増額させることは認められない、というのが現実です。

🎯 今回のケースまとめ

契約賃料13万円 → 最終合意14.5万円(+1.5万円)
相場の18万円には届かなかったが、段階的な増額を認めてもらう形に。
調停に進まず、双方が納得する形で決着。

これが現実です。相場35%乖離・地価上昇・経済指標上昇、これだけ強い材料があっても「いきなり5万円アップ」にはならない。入居者側にとって、これは大きな安心材料です。

「調停(ちょうてい)」って実際どんなもの?費用・流れ・着地幅のリアル

「調停」と聞くと怖そうなイメージがありますよね。でも、実態を知れば「そんなに恐れるものじゃない」とわかります。

調停は「話し合いの場」、裁判とは全然違う

調停は、裁判所が提供する話し合いの仲裁制度です。裁判官ではなく「調停委員(ちょうていいいん)」という第三者が間に入り、双方の言い分を聞きながら合意を目指します。

裁判のように強制的に決定が下されるわけではありません。調停は「あくまで合意を目指す話し合い」です。

調停の実際のスペック

📎 申立費用 1万円前後(大家側の費用)
📅 開催頻度 月1回程度
⏱ 期間 3〜4回(3〜4ヶ月程度)で終わるケースが多い
🏛 場所 管轄の家庭裁判所
💰 増額の着地幅 現行賃料 × 経済指標上昇分が目安。相場の満額にはなりにくい

「調停で認められる増額幅」はどれくらい?

ここが一番気になるところですよね。

調停や裁判で賃料増額が認められる場合、裁判所は「段階的妥当性」を重視します。相場がいくら高くても、長年住んでいる入居者に対して一気に相場まで引き上げることは認めにくい傾向があります。

実際、令和6年に最高裁まで争われた神奈川県の公営住宅の事例(最高裁 令和6年6月24日判決)では、30年以上かけて家賃が大きく引き上げられたケースが問題になるほど、家賃増額は裁判所でも慎重に扱われる分野です。

大家側から見ると、「調停はやろうと思えばできるが、満額は通らない」という認識なんです。これは入居者にとって、非常に重要な情報です。

入居者がやるべき5つの具体的ステップ

では実際に値上げ通知が来たとき、何をすればいいのか。順番に整理します。

ステップ① まず「相場確認」から始める(これが最重要)

「今の家賃が相場より高いのか安いのか」を知ることが、すべての出発点です。

SUUMOやHOME’Sで、同じエリア・同じ広さ・同じ築年数の物件を10件ほど検索してみてください。相場より明らかに高い値上げを求められているなら、強い交渉カードになります。逆に相場より安いなら、ある程度の増額は現実的に受け入れざるを得ないかもしれません。

ステップ② 感情的にならない。「法律違反では?」はNG

「これって違法じゃないんですか?」「弁護士に相談します!」という言い方は逆効果になることがあります。

大家側が「話し合いでは解決できない」と判断すると、調停に進む確率が上がります。相手も冷静に、ビジネスライクに対応することが、最終的に自分の利益になります。

ステップ③ 「ゼロ回答」より「代替案」を出す

完全拒否より、現実的な代替案を提示する方が交渉をうまく進められます。

💡 代替案の例

  • 「今回は○○円に抑えてほしい。次回更新時にまた協議しましょう」
  • 「半年後から段階的に上げてもらえますか?」
  • 「○○円(相場より少し低め)なら即座に合意できます」

ステップ④ 時間を味方につける

交渉が長引くほど、大家側は「早く決着させたい」と思います。焦らず、冷静に時間をかけた交渉も有効な戦術です。ただし、無視や放置は逆効果。必ず返答・対話は続けましょう。

ステップ⑤ それでも解決しない場合は専門家に相談

全国の弁護士会や法テラスでは、賃貸借に関する無料相談を受け付けています。費用をかけずに専門家の意見を聞くことができるので、一人で抱え込む前に活用してください。

それでも不安なら「選択肢を増やす」ことが最大の防御策

交渉はあくまでも「守り」の手段です。長期的に考えると、「この家を出ても大丈夫な状態」を作っておくことが、最も強い立場をつくります。

千葉・埼玉・神奈川に出れば、家賃は月2〜3万円下がる可能性がある

都内で同じ広さの家を探そうとすると、家賃はどんどん上がるばかり。でも、神奈川・埼玉・千葉へ出ると現実が変わります。

都内18万円の1LDKが、千葉や埼玉の通勤圏内なら15〜16万円で2LDK・3LDKが見つかることも珍しくありません。

🗺 移住検討エリアの特徴(参考)

  • 千葉県:都心直通の路線多数、子育て支援が充実している自治体も多い。特に千葉市・松戸・流山・柏エリアは人気
  • 埼玉県:都内勤務でも住みやすい、大宮・さいたま市・川口・浦和周辺が定番
  • 神奈川県:横浜・川崎は都内と大差ない家賃水準だが、小田原・厚木など少し離れると一気に安くなる

「いつでも引っ越せる」という選択肢があると、交渉でも精神的に余裕が生まれます。交渉を時間稼ぎに使いながら、冷静に次を検討する。これが現実的な最善策の一つです。

家賃値上げを「移住を検討するきっかけ」にしてみる

今まで漠然と「いつか移住したい」と思っていた方にとっては、今回の値上げ通知が動くきっかけになるかもしれません。

子どもが小学校に上がる前のタイミング、職場の在宅勤務が定着してきたタイミング、など「動きやすい時期」を見極めて動くことも重要です。

まとめ:家賃値上げは”交渉ごと”、知識が最大の武器

最後に整理しましょう。

📌 この記事のまとめ

  • 「断ればOK」は正しいが、その先(調停リスク)も理解した上で動くべき
  • 調停は費用1万円程度・大家にとって現実的な手段だが、満額増額は認められにくい
  • 実体験では:相場18万 → 最終14.5万円で決着(いきなりの満額はなかった)
  • まずは「周辺相場確認」→「代替案の提示」→「冷静な交渉」の順で動く
  • 長期的には「選択肢を増やすこと」が最大の防御策

家賃値上げの通知は確かにショックです。でも、仕組みを理解してみると「いきなり5万円アップ」とはならないし、交渉でどう着地するかがすべてだということがわかります。

今日の記事で「知識が最大の防御だ」と感じてもらえたなら、ぜひまずSUUMOで周辺相場を確認することから始めてみてください。

もし「千葉への移住」も視野に入り始めたという方は、当サイトの移住関連記事もあわせて読んでみてくださいね。


✍️ この記事を書いた人|ほげたろう

宅建士(2014年取得)・FP1級(2019年取得)保有のフルスタックエンジニア。不動産系サービス会社に勤務しながら、飛び込み営業時代や不動産投資の失敗も含めたリアルな体験をもとに「不動産ゼロからナビ」を運営。4人家族、地方在住。「難しそう」を「なんとかなる」に変える情報を発信中。

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